『破綻するアメリカ』(1) 

 会田弘継の『破綻するアメリカ』を読む。よくまとまっていて、かつインフォマティブな著書で、知らなかったことや忘れかけていたことも多い。本書に記述された固有名を頼りにネットでいろいろ調べることもできる。

 以下、個人用にメモ。

第1章 トランプ誕生の経済的背景

・『ヒルビリー・エレジー』(著)のベストセラー化。
・PEWの中間層の人口(成人)比率の変遷(1971-2015)。農村部の白人高卒労働者階級の不満。このあたりの事情は、映画『スリー・ビルボード』にも表現されていた。
・『ニューリパブリック』で活躍し今は『ナショナル・ジャーナル』に所属するジョン・ジュディスは過去半世紀の米政治を分析する上で重要な投票集団として「中産階級ラディカル」をあげる。彼らはパット・ブキャナン、ロス・ペローを支え、この度のトランプ旋風の原動力となった。
・元トロツキストのジェームズ・バーナム(→wiki)は、1941年の『マネジェリアル革命』で、テクノクラート革命ともいうべき権力交代が起こることに警鐘を鳴らした。いわく、世界はおそらくテクノクラートが大衆を支配する3つの超国家に統合される。これは、ロバート・ライシュ(→ブログ:映画『みんなのための資本論』)が『ザ・ワーク・オブ・ネイションズ』で描いたシンボリック・マネジャーと彼らに奉仕するほかの労働者という構図に相似。
(私見:バーナムの言うエリート・テクノクラートは、最近見たスピルバーグの映画『ペンタゴン・ペーパー』にも登場したロバート・マクナマラのイメージに近い。ランド研究所的何か)。

 第2章 トランプ誕生の思想史的背景

・オンライン保守論壇ジャーナル・オブ・アメリカン・グレイトネス(JAG)。
・若手歴史学者ティモシー・シェンクが戦後アメリカ保守内部の思想的確執を描き出した、(リベラルの)ガーディアン紙2016年8月16日付け記事で、サミュエル・フランシスがトランプ誕生の思想的背景になっていると述べた。(オルタナ右翼の原点)S.フランシスは保守系紙『ワシントンタイムズ』論説委員を務めていたが、90年代半ば白人文化擁護を強く訴え、ウィリアム・バックリーを中心とする保守知識人の主流派から疎まれ同紙から追われた。彼は92年と96年のブキャナン出馬を支援。彼らの共通点は、貿易保護主義、移民排撃、アメリカ・ファースト。
・戦後アメリカ保守思想運動研究の第一人者、思想史家のジョージ・ナッシュが書いた『1945年以降のアメリカ保守派思想運動』(2006年増補改訂3版)。
・ユダヤ系ドイツ人のレオ・シュトラウス(→wiki)はアーヴィング・クリストルらネオコン系知識人に大きな影響を及ぼす。彼の思想は古典思想の立場から「近代合理主義(科学)」や「歴史」という思想を批判。
・JAGは、ダボス会議やクラブ・フォー・グロースなど経済グローバリズムを推進する組織に反対。外交面では民主主義拡大や人道介入を否定。

 政治意識論で有名なミシガン大学のロナルド・イングルハート(→wiki)による調査報告書『トランプ、BREXIT、ポピュリズムの興隆――経済的弱者と文化的反動』が2016年8月にハーバードのケネディスクールから出版。これによると、1976年前後から環境保護、ジェンダー・人種間平等、LGBTの権利意識が高まり、アイデンティティ・ポリティクス(民族・性別集団ごとの権利主張)が高まる。→文化的反動としてのトランプ現象。
・主にシカゴ大学で教えたレオ・シュトラウスの弟子たちの系譜は、クレアモントを中心とする西海岸派と、ワシントンで現実政治に関わる政策知識人たちの東海岸派に分かれる。
・保守系シンクタンク、クレアモント研究所のチャールズ・ケスラー(西海岸シュトラウス派の代表的論客)は、トランプ現象とPCの2つの「社会・政治力」の衝突ととらえる。
・(JAG論客デキウスが批判する)東部エスタブリッシュメントを代表する外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』2016年7.8月号にフランシス・フクヤマ(広義のシュトラウス派)が寄せた「アメリカ政治の衰退か再生か」では「2016年大統領選挙の本質は、大衆の大部分がいま直面している格差の拡大・経済停滞に対し、アメリカ民主主義が数十年ぶりにやっと反応したことにある」。これにより、人種やジェンダーなどの近年の争点は背景に退いた。
・ナンシー・アイゼンバーグの『白い屑 アメリカの階級の知られざる400年の歴史』。

 第3章 策士バノンとオルタナ右翼

・スティーヴン・バノンは「大手電話会社の架線工を父に組合員労働者の家庭に生まれ、ハーバード経営大学院を出て海軍からゴールドマン・サックスに就職」した「アイルランド系カトリック」。彼によれば、エスタブリッシュメント凋落の大きな原因は、NYタイムズやCNN、MSNBC、ハフィントンポストらリベラルメディアが「自己満足的に仲間内だけで対話し、同質化したものの見方」をつくって、世界の現実を理解しないこと。バノンの具体的な主張についてはp116~121に詳しい。アンチ・ダボス。プーチン側近らによるユーラシアニズムにも言及。但し、当面の敵はイスラム過激派。
 ブライトバードの元編集幹部マイロ・イァノプロスは「主流派右翼のためのオルタナ右翼ガイド」で(内部からの見方として)、オルタナ右翼を3つに分類。
①本来的保守主義 ②ミームチーム ③1488族 ほかにも孤立主義者、親ロシア族、ロン・ポール(リバタリアン)支持者、「ネオ反動主義者」。
 オルタナ右翼の主流は①で、彼らは自由市場経済と対外的介入主義に突っ走るレーガンーバックリー保守が牛耳る共和党と、多様性追求+平等化を目指す民主党に対し、「多様性より同質性、急進的平等主義より階層と秩序」を重視する人びと。いわゆるMARs(中産階級ラディカル―ドナルド・ウォレンの造語)。
②は2ちゃんを模した4ちゃんを舞台に、ポリコレに反発して暴言を吐くのを好む、社会規範に挑戦することを好む人びと。オルトライトの中核的論客、『アメリカン・ルネサンス』誌主宰者ジャレッド・テイラー(→wiki:Jared Taylor)など日本のサブカルにも親しい人物がいる。
③はネオナチ(ネオナチスローガンは一文14語、88はアルファベットの8番目HH(つまりハイルヒットラー)。オルタナ右翼穏健派としてはできればいて欲しくないという。

(イァノプロスの見立てでは)オルタナ右翼の出現原因は、多文化主義(MultiCulturalism)の風潮で西洋文明の伝統が不当に貶められてきたことにある。他方、経済と外交の方ばかり向く主流右翼に対しては、左派のアイデンティティ・ポリティクスの隆盛に対し「(古典的)人文主義や自由主義、普遍主義」を盾に押しとどめる努力を怠ったと不満を抱く(第4章に詳しい)。
 なお、バノンらオルタナ右翼と、表面化してきたシュトラウス派は、現状認識は似通うが、思潮的には全く別物。
 JAG論客デキウスの正体は、西海岸シュトラウス派のマイケル・アントン(トランプ新政権のNSCに副補佐官として入った)。西海岸シュトラウス派は、新論壇誌『アメリカン・アフェアーズ』を発足。編集長のジュリアス・クレインはアントンの同志。シャーロッツヴィルの衝突では、トランプを激しく批判。

 続く。

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日経サイエンス2018年6月号 

 フロントランナー挑む:『胎児に刻まれた進化の痕跡』の著者、進化発生学(エボデボ)の入江直樹(東京大学)。『ゴジラ幻論 ――日本産怪獣類の一般と個別の博物誌 』等の著書がある倉谷滋の研究室にいたそうだ。生物の体に、変化しやすい部分と変化しにくい部分があることに着目、「予測性のある進化理論」の構築を目指している。

 NEWSスキャン:「ボノボは暴君が好き」は、進化人類学や動物行動学研究のある種の傾向に潜む擬人主義批判というか、後で出てくる「育ちが左右する自然観」と同じく実験に影響を与えるバイアスを問題にしている。「AIが作り出すリアルなフェイク画像」は、現在、グーグルブレインに関わるイアン・グッドフェロー(→wiki)らが2014年に発表した敵対的生成ネットワーク(GAN)。画像を作成する「生成ネットワーク」とその信憑性を評価する「識別ネットワーク」からなる。
育ちが左右する自然観」は幼児の環境教育に関わる比較文化論的実験。短く要約するのが難しいが^^;、要するに、アメリカの白人一般家庭で育った4歳児は、動物の玩具に人物属性を与える傾向があり、ネイティブ・アメリカンの家庭で育った4歳児は動物を動物としてとらえる、ということかな。白人/ネイティブ・アメリカン家庭の差だけでなく、幼児が動物が擬人的に描かれるTVアニメを視聴してきたかどうかという点も影響する(むしろそちらの影響のほうが大きい?)のではないかと思うが、詳しい実験内容はよくわからない。
脳のブレーキ」が面白い。PTSDのフラッシュバックや鬱病の強迫的マイナス思考等の侵入思考の問題は、思考の遮断を司る脳機能の障害から生じている可能性あり。通常、前頭前野に注目するところ、ケンブリッジの神経学者Michael Andersonらは海馬に着目し、海馬のGABA量により、思考抑制能力の予測ができることを発見。
DNAでできた時計」も要注目。テキサス大学オースティン校のDavid SoloveichikのDNA振動子(分子でできた時計)。人工細胞で生じる出来事のタイミング制御などにも使用でき、合成生物学のブレークスルーに不可欠になるかもしれないという。

「勝つための議論」の落とし穴:世の中には道徳的客観性、政治的客観性が存在すると考える「客観主義者」と「相対主義者」寄りの人がいる。ペンシルバニア大学Geoffrey P.Goodwinは、客観的・倫理的真実についての見方は、他者と相互作用する仕方を規定しているかもしれないと説いたが、記事の筆者陣は逆向きの実験を試みた。議論を「勝つための議論」と「学ぶための議論」の二つのモードに分けた場合、自分たちが実行している議論のモードが、議論している問題そのものに対する自分の理解を変えていると指摘。勝つための議論では単一の客観的に正しい答えの存在への信念を強化し、理解のための議論は逆に、異なる答えでも等しく正しい場合があることへの信念を強化する。
 記事の執筆陣にはエール大学の実験哲学者ジョシュア・ノーブ(→wiki:Joshua Knobe)がいる。ノーブの「実験哲学という実験」は2012年2月号。こういう思考/理解の科学とでもいうのか、科学と哲学の境界みたいな話はもっと増やして欲しいなあ。

 共感の功罪:共感にはおもに「情動的共感」、「認知的共感」(視点取得、心の理論)、「共感的配慮」(同情)の3つの主要構成要素がある。(フランス・ドゥ・ヴァールは、共感研究の先駆者という位置づけらしい)。ポール・ブルーム(→wiki:Paul Bloom(psychologist))の『反共感論』によると、認知的共感は素晴らしいが、情感的共感はないほうが良いくらい、という。

 頭のなかがぽややんとして、今月号はどうもうまく要約できない。最近、読みやすい本ばかり読んでいたせいか、それとも脳の老化が一気に来たのか? あるいは、今までちゃんと要約できていたつもりだったのが問題なのか^^;。より深い理解を得るためにはもっと関心範囲を絞ったほうが良いってのはわかってるんだけどね。または、あとでちゃんと読みたくなったときのための、ただのインデックスで良いような気もするしぃ・・ブツクサブツクサw。