チームラボ『呼応する森』 

呼応する森

 7月22日~8月28日まで、宇部のときわ公園で開催されていたチームラボの『呼応する森』。


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山口盆地午前五時 

 若松孝二監督の映画『実録・連合赤軍』 (2008年)では高石ともやのフォークソング『友よ』が実に印象的に使われていて、映画を観て以来なにかにつけて「夜明ーけはぁ近い~、夜明ーけはぁ近い~」と口ずさんでしまう癖がついた。
 だからというのもナンだが、10月8日~12日に開かれた山口現代芸術研究所(YICA)主催の『山口盆地午前五時』を訪れたとき、今回のプロジェクトの概要に、“今まさに「夜明け」を迎えようとする山口盆地のありようと示す”と書いてあったのを見て、このYICA会員/関連アーティスト総勢二十数名によるグループ展を、つい連合赤軍によるあさま山荘立て篭もりに例えたくなったとしてなんの罪があるだろうか。そういえば会場となった『菜香亭』は、連合赤軍事件当時の首相・佐藤栄作が山口滞在時に好んで泊っていたところだというし。
 YICAは90年代半ばからスコットランドのエジンバラ大学との交流を深めてきた団体で、今回のプロジェクトは、スコットランドの思索者、パトリック・ゲディス(→wiki) が示した"Valley Section"の考えをベースに、椹野川流域としてのYamaguchi Valley Section――山口盆地――の現在に迫るというものである。

 たとえば、中野良寿はゲディスの思想に登場する3羽の鳩の象徴(Sympathy,Synthesis, Synergy)にちなみ、Rice Drawing(3羽の白鳩と一羽の茶色い鳩)と題するワークショップを行った。参加者は白米と籾殻のついた米粒をつまんで住宅地図の上に転がす。そして、籾殻付きの米粒が止まった地点に実際に足を運び、デジカメでも写メでもいいから写真を撮って中野のもとにメールで送ると、後日webで公開されるという。
中野良寿1 中野良寿2
 なお、今年の7月、中国地方西部は十数名の死者を出す記録的な豪雨に見舞われ、山口市では朝田浄水場の浸水により3万戸近い家屋が断水となった。市民が大雨の中、ペットボトルやポリタンクを持って給水所を訪れる姿を見て、われわれの生活がいかに自然の水ではなく社会的にコントロールされた水に依存しているかを再認識した人もいるだろう。

   藤木律子は現代アートでは滅多に扱われることのない嗅覚に着目し、椹野川に舟を浮かべて「Super香道」を行った。
藤木律子

 山城大徳のビデオ作品『みんな手を振ってくれる?』は、山口と津和野を結ぶ蒸気機関車にデジカムを携えて乗り、機関車に向かって手を振る街の人びとや機関車の撮影に熱中する鉄道オタクたちの姿を映し出す。耳鳴りめいたサウンドをバックに、踏切で待つ親子連れや、アパートのベランダで幼子を抱えた母親が手を振る素朴な光景が展開する。
山城大督1山城大督2

 山口盆地や“夜明け”のイメージに直接関わる作品ばかりではない。
 白川美幸はこれまでずっと日頃じっくり見る機会のないハエの動きに注目し続け、AMPLIFIED Flyシリーズを展開してきた。今回はビデオカメラの前に固定した小さな透明ケースにハエを軟禁し、自由を奪われたハエが狭い空間内でもがき暴れる姿をモニターに映し出す。
白川美幸2 白川美幸1
白川美幸3 白川美幸4

 以前のブログで紹介した有佐祐樹は今回、『みんなうなずく』というタイトルで、ネットから拾ってきた世界中の祈りや畏れの対象――神さまやデビルの顔――を太陽電池の入った土台に載せて揺動を繰り返すという作品を展示している。
有佐祐樹1 有佐祐樹2
有佐祐樹3 有佐祐樹4

 作品と展示が分離しているものもあったが、『菜香亭』の空間を活かした展示自体が作品となっているものもいくつか見られた。
 「HONEY, BEAUTY AND TASTY」という刺激的なパフォーマンスで知られる澤登恭子の今回の作品は、ジェンダーをあからさまに意識させる女性の身体が夜の汀にたゆたい、あるいはふんわりした羽毛布団にくるまって寝返りを繰り返す映像を扱っているのだが、『菜香亭』の客間の傍で仲居が控えるためにあるという狭い空間の襖に、鏡にいったん反射させてから投影するという手法を採っている。これはことさらに見る者の官能に訴えかけ、実に効果的である。
澤登恭子1 澤登恭子2
 ほかにも階段の踊り場を利用した小畑徹の写真、4畳半の畳の間に置かれた原井輝明の作品等が印象に残った。
小畑徹1 小畑徹2
原井輝明1 原井輝明2

 「一般大衆」の嗜好に阿ることなく我が道をひた進む現代アートの動向を、「国家権力」との闘争の果てにさらなる苛烈な方向へと突き進んでいった連合赤軍のイメージと重ね合わせてしまうのは、ちょっとイヤミが過ぎるだろう。今の現代アートの人たちは以前に比べ遥かに人とのコミュニケーションに意識的である。

 そう、今は午前五時、現代アートの「夜明け」は近い、と歌ってみるのも一興かもしれない。



「Phantom Exhibition~背骨のためのマテリアル」に行く。 

観客と共に
 コンタクト・インプロビゼーションで知られるスティーヴ・パクストン(Steve Paxton, 1939-)の身体思想を紹介する展覧会「Phantom Exhibition~背骨のためのマテリアル」を観にYCAMへ行く。Phantom Exhibitionはパクストンがベルギーの映像アーティスト、フローレンス・コリン(Florence Corin)、バプティスト・アンドリアン(Baptiste Andrien)と共同で制作した映像作品である。
 前後左右4面に天井の1面を加えた5面の巨大スクリーンに映像が映る。内容は体操/ダンスに、合気道や太極拳、ヨガ、ヴィパッサナー瞑想等のエッセンスを加えたパクストン独自の身体技法がベースとなっている。彼は自分の身体で普段目に入らない背骨や足の裏に注目し、特にスペイン語でコラムーつまり円柱ーと呼ばれる背骨が、どれだけ身体のさまざまな部位を支え、どれだけ人の動きの中心をなしているかを深く考えながらダンスを実践・指導している。そして、ダンスは体の可能性を多様に引き出すという。有機農業をおこない、ダンスで得たフォームを農作業で試したり、背骨を意識して雑草を刈ったりするらしい。環境問題にも関心が深く、関心ある人の一人としてカナダの科学者・環境活動家のディビッド鈴木(David Takayoshi Suzuki, 1936~)の名をあげている(以上、shiftのインタビュー記事より)。

 展示会場のスタジオBの前に掲げられたパクストンの略年譜が詳しくてわかり良い。マース・カニンガムの舞踊団に所属したこともあり、ジョン・ケージやロバート・ラウシェンバーグの思想に共鳴してジャドソン・ダンス・シアターやE.A.T.(Experiments in Art & Technology)に深く関わった人だそうだ。
E.A.T.は60年代にAT&Tベル電話研究所の技術者、ビリー・クルーヴァーが中心となってR・ラウシェンバーグやジョンケージらと共に発足させた運動組織だ。音楽、美術、ダンス、映像といった幅広いジャンルのアートを新しいテクノロジーと結びつける活動を続けたことで知られており、66年にはバックミンスター・フラーも参加した伝説的パフォーマンス"Nine evenings"を披露(パクストンはphysical Thingsという作品を展示)し、大阪万博の際にはペプシ館の企画運営までおこなっている。
アートとテクノロジーの融合に身体表現まで加わっているとなると、「アート⇔メディア⇔身体表現」を総合的なテーマとして掲げ、展示よりむしろ制作を重視してインターラボをもつYCAMにも、その思想が受け継がれているといっても誤りではないだろう。

 そういえば会期中の6月30日にピナ・バウシュが亡くなり、7月26日にはマース・カニンガムが亡くなった。パフォーマンスの一つの時代が終わったと言えるかもしれないが、同時に、アートとテクノロジーと身体表現が共に壮大な夢を見た60年代から40年以上を経て、新たな美学とテクノロジーによるトータルアートの時代が到来しつつあることを実感する。
太極拳
足裏_1 足裏_2
複数のダンサー
3 persons_1 3 persons_2 3 persons_3
骸骨 スティーヴ・パクストン