美術手帖2018年1月号~バイオアート特集 

 美術手帖2018年1月号はマストバイだ。

 約110ページにわたってバイオアートを詳しく特集。

 表紙は『ブレードランナー:2049』(→ブログ)に由来するのかと思ったら、長谷川愛の「ぼわ子」の虹彩イメージ。

 特集では、金沢21世紀美術館でGost in the Cell(2015)を出品したBCLの福原志保、細胞演奏のガイ・ベン=アリ(→Guy Ben=Ary)、長谷川愛へのインタビュー記事。そして、オーストラリアのSymbioticA(→wiki)や岩崎秀雄のmetaPhorest、YCAMバイオ・リサーチ、アイントホーフェン(オランダ)のバイオアート・ラボ、東京のバイオクラブ、ヘルシンキ(フィンランド)のバイオアート・ソサエティといった世界各地の研究機関の紹介。久保田晃弘監修によるバイオ・アートの基礎講座(略史/パイオニア紹介/用語辞典/BOOK&MOVIEガイド/コラム)。対談記事は小室哲哉×脇田玲(→wiki)及び福原志保×長谷川愛。さらには岩崎秀雄・京都大学iPS細胞研究所の八代嘉美(→wiki)・ローリ・B・アンドリュース(→wiki:Lori_Andrews)の論考を掲載。

 おもなバイオ・アーティスト&サイエンティストを短く紹介している。平行進化(→wiki)や地球上6度目の大量絶滅をテーマにするマヤ・スムレッカー(Maya Smrekar)、四足歩行できる人工装具を身に着け、草から栄養を摂れるよう人工胃腸の開発まで着手してイグ・ノーベル生物学賞を受賞したトーマス・ウェイツ(→wiki)、幹細胞で再生した皮膚で衣服をつくるティナ・ゴヤング(Tina Gorjanc)のほか、神崎亮平(→wiki)や、2016年のアルス・エレクトロニカで金属と一体化した絹糸を吐く遺伝子組み換えカイコを発表した瀬筒秀樹など。瀬筒はたしか、スプツニ!子の豊島八百万ラボ(→ブログ)でも協力者として名前があがっていた。


 今後、YCAMで作品展開が期待できるBCLは、福原志保が2001年にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)でゲオアグ・トレメル(Georg Tremmel)と出会ったことで始まった。99年と00年のアルス・エレクトロニカでジョー・デイヴィス(→wiki:wiki:Joe_Davis)、オロン・カッツ(→wiki:Oron_Catts)のバイオアート作品に衝撃を受け、DNAのコンピューショナルな側面とタンパク質のマテリアル性からなる生命をテーマに、インターネット的な思考で何かできないかと考え、後年、Biopresence(2004)を創る。それは故人の遺伝子を樹木に埋め込み、公園に植樹するという事業プロジェクトだった。本作品はNESTA(英国科学技術芸術基金)のパイオニア・アワードを受賞し、福原はBippresence Ltd,を起業。但し、ビジネスとしての課題は大きく、研究活動による実現を目指し、日本で岩崎秀雄のmetaPhorestのメンバーに加わる(BCLのプロフィールは、metaPhorestの関連ページにもある)。2015年には金沢21世紀美術館で『Ghost in the Cell』を出品。これは初音ミクの外見上の特徴を施したDNA配列データを組み込み心筋細胞を培養するというもの。

 Curator Pick Upは、グゲンハイムのアジア美術上級キュレーター、アレクサンドラ・モンロー(wiki:Alexandra Munroe)へのインタビュー記事。これは読ませる。北米における戦後日本美術研究の出発点は「戦後日本の前衛美術:空への叫び」展だったと自負。いわく(当時は)「美術批評が東京中心だったために、(関西の具体派のほか)九州派も墨人会などの動きもほぼ無視されていました」。アルジュン・アパデュライ(→wiki)の「さまよえる近代」や竹内好(→wiki)の「方法としてのアジア」にも触れており、価値観の構築と破壊を繰り返す中国と、滑らかな連続性を保つ日本を対比させる。

 WORLD NEWSではパリのフォンダシオン ルイ・ヴィトン(FLV)で開かれた「エートル・モデルヌ(モダンであること):MoMAがパリに」展など。MoMAの6部門20万点超の作品から200点が選ばれて展示。デュシャンやカルダー、草間彌生、ブルース・ナウマンのほか、収蔵されたとき話題になった栗田穣崇の「絵文字」やタイトーの「スペースインベーダー」など。MoMAは1920年代にリリー・P・ブリス(→wiki:Lillie_P._Bliss)ら3人の女性が考案し、1929年(大恐慌の年)、当時27歳だったアルフレッド・H・バーJr.が初代館長を務めてオープンした。
 ほかにも、AOMORIトリエンナーレ(2018.1.20~3.4)では、バイオアート関連として、BCLや植田工+池上高志、長谷川愛、YCAMで今、作品展示中の古舘健、パン・ジャン・フェンの5組が参加するという。

 根本敬ゲルニカ計画(ニコ・ニコルソン)はいよいよ佳境?(今までちゃんと読んでなかった^^;)。

 文中敬称略。



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YCAMバニシング・メッシュ展~Avatars 

 YCAMのホワイエで展開中のAvatars(管野創+やんツー)で遊んでみる。

 本作は基本的に、固定電話やカラーコーン、石膏像、車などのオブジェクトで構成されたインスタレーションだ。各オブジェはラズパイ(小型コンピュータ)やカメラ、マイク、モーター等を備えており、それぞれネットに接続している。

 遊び方は自由だが、おススメは、最初から現地に行くより、まずは自宅のパソコン等からKS+y2 Avatarsに入ってオブジェに"憑依"(=ログイン)してみることだ。但し、ログインできるのはYCAM開館時間内に限られる。最初は意味が分からなくても、何度かログインし直せば、なんとなく面白さがわかってくるはずだ。

 これはある意味、ライゾマティクスの『border』と同じく、鑑賞者が"知覚するモノ"として参加する参加型「パフォーマンス」だ。

 ダンサーは周りで踊ってくれないし、凝った3D映像もないが、開館時間内なら遠くにいても自由に参加できるし、椅子に縛られることもない。
 カメラ(視点)の向きを変える以外にも、音を鳴らしたり、色を変えて発光したり、コメントを打って壁に表示させたり、(電話に憑依すれば)会場にいる人と会話したりできる。自分の身体で参加する代わりにアバターが参加するのだ。

アバターズ アバターズ
アバターズ アバターズ

 ポイントは憑依するオブジェを鑑賞者が選べないことにある。
 あらかじめ会場構成を把握済みなら、なんとなくこの辺が見えてるからたぶんXXに憑依したのだろう、とか機能ボタンを押すとベルが鳴ったから電話に憑依してるのだろう、とかいくつかのヒントを手掛かりにある程度、推測が可能だ。ただ、会場の鏡の壁に自分のアバターが写るようにカメラ角度を調整するのだが、写っていなかったりする。手探りで自分(のアバター)が何であるかを確認していく遊びなのだ。

 ときにはカメラの向きの操作さえできないオブジェに憑依する場合もある。それでも、少なくとも会場を駆け回る子どもたちやうろうろする大人たちを人間動物園的に/ピーピングトム的に覗き見る楽しみはある(会場にいる人は、あらかじめ自分がカメラに映ることに同意する必要がある。顔が映るのがイヤという人にはお面を用意してある)。

 これは、憑依によってオブジェクト(=客体)がサブジェクト(=主体)に変わることを通じて、機械と人の交換可能性を考える契機になる。

 あるいは、(可能性はともかくとして)マインドアップロードの「予行練習」にもなりうる。

 そして、何度もログインして会場を見渡し、ときに限られた手法で介入し、自分のアバターが何であるか想像するうちに、実際に現地に足を運んでみたくなる。

 うーん、仕掛けの拡張性もあるし、なかなかよく考えられてるなあ。

アバターズ

美術手帖2017年1月号~ライゾマ特集 

 美術手帖2017年1月号は、約90ページにわたってライゾマティクスを特集。

 ライゾマの活動はNHK紅白でのパフュームの演出や、YCAMにおける作品展開で部分的に目にしてきたが、本特集でこれまでの活動の概要に触れることができた。ICCでは1月14日~3月20日にかけて、ライゾマとART+COMの共同展示、光と動きの「ポエティクス/ストラクチャー」が開かれる。

 ライゾマティクス(Rhizomatiks)は、昨2016年7月に創立10周年を迎えた(余談だが、庵野秀明のカラー(khara, Inc.)の創立や村上隆の『芸術起業論』の刊行も2006年のほぼ同じ時期)。同社は現在、「リサーチ」、「デザイン」、「アーキテクチャ」、「マネジメント」の4つの部門から成り立っている。

 根幹となる「リサーチ」には現在、メディア・アーティストの真鍋大度(→wiki)、石橋素を含め19名のメンバーがいる。
 大きな話題を呼んだリオ5輪のフラッグハンドオーバーセレモニーやパフュームの演出(カンヌライオンズやSXSW、24 drones…)、VRクリエイティブアワード2016で最優秀賞を受賞したRez Infinite-Synesthesia Suit、パフォーマンス作品「Border」(→ブログ)、安川電機ロボット村オープニングセレモニー(↓映像)などは「リサーチ」部門が担当。

 ほかにも、サカナクションがオーガナイズするパーティ「NF」にレギュラー参加してVJ表現の更新に挑み続け、教育事業flyingtokyo(2009-)なども展開。
 元内視鏡エンジニアでコンピュータ・ビジョンやマシン・ラーニングの専門家である登本悠介や、ソニーでAR技術開発に携わった花井裕也、山本政志監督の映画『水の声を聞く』(→ブログ)で録音を担当した映画音響技師・上條慎太郎など、多彩なバックグラウンドをもつエンジニア/クリエーターが参加。

 木村浩康が代表を務める「デザイン」部門は現在11名。ライゾマのプロジェクトでビジュアル面を統括するとともに、デザインコンサルやコミッションワークを手掛けている。2017年に新設される大阪芸大アートサイエンス学科のboundo baw、経産省の観光予報プラットフォーム(写真はCCのようだ)、JINSのウェアラブルデバイスJINS MEME、NHKスペシャル『NEXT WORLD わたしたちの未来』(→ブログ)などをサポート。
 話題のベンチャー企業、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーの全自動洗濯物折り畳み機ランドロイド(↓)にも協力している。


 齋藤精一率いる「アーキテクチャ」部門(現在5名)は、ICCのSolaris Protocol(2014)や2016年9月、渋谷にオープンしたライブハウス「wwwx」のファサードサインや内装のライティングオブジェなどをデザイン。総務や経理・庶務といったバックオフィスは、千葉秀憲率いる「マネジメント」部門が担当している。

 活動内容を時系列的に伝える略史は、真鍋大度と齋藤精一、千葉秀憲が東京理科大で出会った1996年から始まっている。

 真鍋大度へのインタビューでは、000Studioの倉持正之や松川昌平から、池田亮司の代わりに「音」制作を依頼されてメディアアートに"覚醒"した話や、岩井俊雄、ゴラン・レヴィンらに影響を受けた話など。

 ザック・リーバマン(→wiki:Zachary Lieberman)と真鍋の対談では、メディアアート拠点の話など。NYにある非営利のスタジオ・レジデンス施設Eyebeam(→Wired2016.6.24関連記事)や、SANAA(妹島和世+西沢立衛)が建築デザインを手掛けたニュー・ミュージアムのNew Inc.、ヨーロッパでは、ご存知オーストリア・リンツのアルス・エレクトロニカのほか、オランダ・エイントホーフィンでSTRPビエンナーレが開かれている。リーバマン自身もSFPC(School For Poetic Computing)を運営しており、日本人ではバイナリカードゲームの浦川通が学生として通っているという。真鍋はドイツ語圏とイギリス、フランスでメディアアートのとらえ方が異なる点を指摘していた。

 オモシロかったのは、"エキソニモ"千房けん輔のコラム「メディアアートは売れるのか?」。複製可能な映画やアニメを含む広義のではない、現代アートの一ジャンルとしてのメディアアートは、機材込みというのが普通。ラファエル・ロサノ=ヘメル(→wiki:Rafael Lozano-Hemmer)など何人かのアーティストは、保証期間やメンテ契約を結んで販売しているという。数百年前に描かれた名画は絵画修復士を要求するが、ナム・ジュン・パイクのブラウン管テレビを用いた作品などは今後、どのように保存していけば良いのか、という問題。

 特集以外では西尾康之へのインタビューや、蔵屋美香による「Chim↑Pomの『また明日も観てくれるかな?』展レビュー」が目を引いた。新宿歌舞伎町振興組合ビルの解体作業に合わせたChim↑Pomの展覧会では、彼ら自身が各種申請・交渉・予算ねん出・解説の作成までおこなったという。昨年は東京都現代美術館でキセイノセイキ展が開かれるなど、表現規制の問題がクローズアップされたが、各種の「規制」に縛られないアート活動のためには、美術館に頼らないのが一番、という答えを示したわけである。

 ライゾマ特集のすぐ後に49年間続く美術家集団ザ・プレイの記事を持ってくる編集部のセンスはなかなかw。40年後のライゾマを想像してしまったw。

 文中敬称略。