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村上隆『バブルラップ展』 



 熊本市現代美術館(→ブログ)で村上隆の『バブルラップ展』を観る。

 本展は、村上曰く「『もの派』や『スーパーフラット』といった命名済みのムーブメントとまだ命名されていない表現達をお団子のように串刺しにすることで、大きな物語の形をあぶり出そうという企画」だそうで、「1990年以降の『失われた20年』の『デフレと低成長経済』の日本国内に起きた陶芸芸術の一部的な発酵熟成の原因究明を、バブル経済真っ盛りの頃の日本のアートと相対化させて、日本人の美意識の核心部分を浮き彫りにしよう」というもの。「バブルラップ」はその全体像を包括する言葉だという。
 バブルラップとは、かつての日本ではエアキャップという和製英語で呼ばれていた気泡緩衝材のことだ。あえて「エアキャップ」ではなく「バブルラップ」と呼ぶところに村上の意図があるに違いない。かつて日本人が自分たちの戦後美術史をとらえてきた視点とは異なる、20世紀後半から現在に至るアートワールドを席巻したアメリカからの視点を(彼なりに)拝借してみた、ということかな?



 最初に観客が目にするのは、ソニー・アイボのデザインで世界的にも有名な空山基(→wiki)のSexy Robot_Walking(2018)。その傍らには、篠山紀信の『三島由紀夫(1968 東京)』。ワックスがけしたようなテカテカした裸体をさらし、日本刀をかかげてポーズをとる三島由紀夫に、金属製のピカピカしたアノニマスな女体が呼応する。
 この2作品が生まれた1968年と2018年に挟まれた50年間のアート史/表現史を総括するという宣言なのだろう。



 本展に展示された美術品はすべて、村上隆がコレクションしたものだそうだ。何割かは定かでないが、扉の目玉デザインも含めて、スーパーフラット展(→wiki)に出品されたアイテムと重なる。荒木経惟の『センチメンタルな旅』シリーズ、小松崎茂の原稿や成田亨の原画、庵野秀明のDAIKON FFILM「帰ってきたウルトラマンアロー1号発信命令」直筆設定、竹熊健太郎の「JR中央線・"夢のトーマス化計画"とは何か?」(2000)、ヒロミックスのセルフポートレイト、加藤泉、カイカイキキ・メンバーの青島千穂「赤目族」(2000)やタカノ綾等等。



 グルービジョンズの『チャッピー33』は、ロザンゼルスMOCAパシフィック・デザイン・センターでの「SUPER FLAT」展でも展示された。

 続いて陶芸コーナーへ。



 陶芸は全く関心ゼロ、というわけではないが、これまであまり「現代アート」の1ジャンルとして観てこなかった。

 ただ、現代美術の作品は滅多に購入しないが、陶芸なら時には多少、買うことがある。



 ↑は上田勇児の作品。村上隆はスーパーフラット現代陶芸考という展示を各地でおこなっているらしい。「陶芸」として紹介されるより、「現代アート」として紹介される方が値段があがるのかな? このあたり、マーケットに詳しくないので何とも言えない。国内/海外の現代アート市場で、日本の陶芸というのはどれだけ認知されているのだろう?



 ↑は小出ナオキの作品。ナイーヴ・アートっぽい感じが好い。



 絵画、写真、マンガ、イラスト、彫刻、陶芸、インスタレーションはあっても、テクノロジー・アートやダンス、音楽、演劇、ゲーム、建築的なものへの言及はない。映像作品は、指差し作業員の「ふくいちライブカメラを指差す」(2011)の1点のみだった。それだけに、静かな会場にぼそぼそと聴こえる原発事故に関わる声がなまなましい。

 日比野克彦や大竹伸朗、榎忠、中原浩大、中西夏之、岡崎乾二郎、川俣正、森村泰昌、李禹煥(→ブログ)、奈良美智はあっても、ヤノベケンジはない。

 さてさて、『もの派』や『スーパーフラット』は世界的な美術用語になったみたいだが、バブルラップはどうなのだろう?



 アートファンは大きく分けて、「見るだけで満足できる人」と、見るだけにとどまらず「コレクションする人」に分かれる。私なんかは前者で、アートに限らず、何かを物質的にコレクションするタイプではない。
 自らを振り返ってみると、美術展と言えばたいてい行くのは公立美術館で、私立の美術館やギャラリーに足を運ぶことは滅多にない。私立美術館が少ない地方だからということもあるが。公立美術館はたぶん、文科省の定めたパブリック概念のガイドラインに沿って、展示作品を決めていく。知らず知らずのうちに彼らの考える「アート作品とはこういうもの」に教育されていくわけである。

 最近、上海に行ってきた(→ブログ:上海双年展2018)のだが、中国と日本の(地方の?)アート事情を比較すると、どっちが共産主義国なんだろう?と、混乱を覚えてしまった。それだけ上海では市場性が強く感じられたのであり、ひるがえって、日本の公立美術館(やアートメディア)は、「アーティストの生活や製作費の捻出が市場で支えられている」という事実に、できるだけ触れないようにしてきたように感じる。

 現在、日本の公的美術館は大きな改革の波にさらされていて、コミュニズムへの希望が大きかった時代に共感を抱く伝統的文科省人脈と、官邸・経産省・経団連の影響を受けた人びとが、今後の日本のアートや美術館のあり方をめぐって内紛を繰り広げている。そりゃあまあ確かに、公務員や公務員になりたがる人にとってのユートピアは共産主義国家だろう。
 中小企業庁には起業家たちをサポートする仕組みが(一応)あるが、文科省にはアーティストが公的支援なしに自律して食べていくことに対し、これまでほとんどサポートしてこなかったことが関係している。ビジネスにするなら、管轄は経産省(中小企業庁)ね、と考えられていたふしがある。いま求められているのは、いわゆる「活力ある民間を育てる「行政の改善」」ということになるのかな。

 個人的には、公的なアート振興としては、「助成金」漬けの国際芸術祭乱発は今くらいにとどめて、富裕層や大企業にもっとアート・コレクションやメセナに関心を抱かせる仕組みづくりこそが重要だと思うのだが。アートは市場で売買されるものであり、投資対象としてみてもいい、という考え方は日本に根づいてこなかったように思える。ただそれは、美術館での展示に「値札」をつけるような、露骨なことをしろという意味ではない。昔のような露骨な商業主義が嫌われ、マーケットが洗練されてきた今、なにも株式や商品取引だけが投資対象ではなく、現代アートを投資対象としてみる考え方がもっとあっても良いような気がする。
 まあ、昨今はクラウドファンディングが大きな潮流となりつつあるので、アート・コレクションだけにこだわる必要は全くないが。

 なんとなくそこらへんの、アートにおける「公」と「私(民間)」の対立/相補性みたいなものを考えさせられた展覧会だった。

 【追記】
 書き忘れていたが^^;、バブルラップはワレモノを包み込むためのもの。サブカルと陶芸美術に共通する点は「壊れやすさ」。本展は、「壊れやすいもの」、「移ろいやすいもの」、「はかないもの」を愛でる日本人の美意識を浮き彫りにした、ということだろう。

 できて数年で取り壊しが決定した西沢立衛のコンクリート屋根(→ブログ:JR熊本駅東口)といい、Denkikanで観た『チューリップ・フィーバー』のヴァニタスといい、熊本城でみた震災の爪跡(→ブログ:熊本県立美術館分館から熊本城公園へ)といい、今回の熊本ツーリズムのテーマは、はからずも「はかなさへの愛」ということになった。

 文中敬称略。

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白川(熊本市街) 

白川(熊本市内)

 帰りは白川河岸に沿って、JR熊本駅まで歩いてみる。

白川(熊本市内)

 白川(→wiki)は南阿蘇を水源とする一級河川。1953年と2012年に氾濫が起こっている。熊本・白川における橋梁変遷史

 ↓は白川橋。
白川(熊本市内)

 ↓は1992年のアートポリス作品、藤江和子アトリエによる「フライングライト」。
白川(熊本市内)

白川(熊本市内)

白川(熊本市内)

 ↓は白川橋左岸緑地トイレ(→熊本県の当該ページ)。設計は太田浩史/デザインヌーブ、施工は富田建設。瀬戸内国際芸術祭の舞台である島々でも、デザイン・トイレの試みが行われていたが、たぶんいくつかの県や市でこうした試みが始まっていると想われる。
白川(熊本市内)

 ザ・熊本タワー(てヒドイ名称だな)は、JR熊本駅の位置を遠方に示すランドマークとして機能している。地方の駅前にタワマンが建つ理由の一つだろう。
白川(熊本市内)

白川(熊本市内)

 ↓はくまもと森都心プラザ4階から白川方面を撮った画像。
白川(熊本市内)

 …てことで、振り出しのJR熊本駅(→ブログ:JR熊本駅西口)に戻る。

熊本・電気館と下通りアーケード街 

熊本電気館

 熊本駅前から市電に乗って辛島町で下り、熊本のサンロード新市街にある映画館、Denkikan(→wiki)に行く。

 wikiによると、1911年に活動弁士の窪寺喜之助が熊本城の近くに「電気館」として開館したのが発祥。喜之助の曾孫にあたる4代目館主・窪寺洋一氏は、映画館関係者として初めて日本映画批評家大賞特別賞(→wiki)を受賞した。

熊本電気館
 チケット売り場は2階にあり、スクリーンは2階と3階、5階にある。

 今回観たのは、『チューリップ・フィーバー』(→ブログ)。

熊本電気館
 地域の文化活動の拠点にもなっているようだ。

熊本電気館



 サンロード新市街と交差する巨大アーケード街は下通り(→wiki)と呼ばれる。wikiによればメインアーケードは長さ511m、幅15m、高さ15m。全店舗で楽天Edyが使用できるらしい。郊外型ショッピングモールの隆盛に伴い、一時、通行量は減少したが、2009年にはアーケードの掛け替えを実施している。各地をくまなく旅行したわけでないので不確かだが、全国的にみても大規模なアーケード街の一つではないか。高松の中央商店街(→wiki)もけっこう、大きかったが。

下通りアーケード街

 下通りを北に歩いて市電が走る大通り、通町筋に出ると、道路の向かいに熊本市現代美術館(→ブログ)が入ったびぷれす熊日会館が見える。

 鶴屋百貨店(→wiki)本館の周囲にも片側アーケードをめぐらせている。片側式アーケードはヨーロッパでよくみかけた。昔、アール・ブリュットのルサージュ作品を追いかけてアラスまで行ったことがあるが、あそこの広場の片側アーケードは素晴らしかった。
 wikiによると、鶴屋は1969年に西日本初の立体駐車場を設けている。

下通りアーケード街

下通りアーケード街