アリサの名はおぼえておいたほうがいい 

ホエールディスティネーション
 無名の若手現代美術家のなかで、初めて応援したくなったアーティストを紹介したい。
 彼の名は有佐祐樹。1981年石川県生まれで、2004年に成安造形大学デザイン科を卒業、現在まで主に京都を拠点としてアート活動を続けている。
 今回、山口市のNPO、YICA(現代芸術研究所)の支援で市内に1か月ほど滞在し、12月17日から23日 まで市内の菜香亭とアトリエ「木町ハウス」で展示をおこなった。
 タイトルは「ホエール・ディスティネーション」。クジラ/捕鯨というcontroversialなテーマを扱 った作品である。
 菜香亭の2階に上がると上の写真のようなインスタレーションが目に入る。中央のテーブルの上には、長門市・青海島の地図が置いてある。黒い床板の上には碁石とフォークで象られたヒトガタはクジラにモリを打つ漁師なのか、それとも鯨肉を食する人びとなのか。
  鯨取り  ビデオ
周囲にめぐらせた立て板には白い紙が貼ってあり、「英雄ペルセウスに石にされた怪物、それがくじら。…」「反捕鯨運動の始まりはアメリカがベトナム戦争についての批判を退けるための戦略として。…」などとクジラや捕鯨にまつわるテクストが書き記されている。奥のビデオモニターには、クジラ座の図像を一部アニメ化したものが映っている。
鯨肉
 テーブルに寄り添う椅子めいた立方体は鯨肉の塊を表しているようだ。遠洋で捕獲、殺戮されたクジ ラは、冷凍されて市場に運ばれる。そこで冷凍鯨肉はこのように四角く切断されて売られていくの だ。血まみれの赤肉部分と白っぽい脂肪部分が混じりあう立方体の肉塊は、生々しい屍骸と人の食するミー トの間にあって、生き物を食べることの「業」にわれわれを誘う。
yica
 続いて瑠璃光寺五重塔に近い木町ハウスに足を運ぶ。
 ここには、先ほどビデオモニターで見たクジラ座図像や、青海島の拡大地図をタングラムにしてクジ ラ座様(日本列島にも見える?)に広げた作品が設置されている。
タングラム
 しばらくすると襖がススーッと開いて有佐氏ご本人がお茶とお菓子をたずさえて姿を現す。テーマについて尋ねると、彼として は捕鯨問題のベースをなしているのはいくつかのファンタジーであるということを表現したという。クジ ラ座タングラム上に散りばめられた碁石は星をあらわしているそうだ。
 捕鯨をテーマにしたアーティストに《クレマスター》のマシュー・バーニーがいる。彼は奥さんのビ ョークー生国のアイスランドは日本と同じく捕鯨国―と共に日本の捕鯨船に乗り込んで《拘束のドロー イング》という映像作品を制作しているが、あるコメントが捕鯨に対して肯定的ととらえられたため、欧米の反捕鯨運動家たちから強い非難を浴びたそうだ。
 有佐氏には過去に友人・知人に応援してもらいながら自慰を完遂するという活動/作品があり、「物議をかもし出すものへの指向」が感じられて、そこが私を魅了するところかもしれない。行為の概要を聞いただけで、センセーショ ンに訴える作品は底が浅いという意見を吐く人もいるだろうが、たとえばボディ・アートで知られるヴィト・アコンチがかつて観衆を前にして自慰行為をしてみせたことがあり、それとの比較をするのも面白いのではないか。私としては現場に立ち会ったわけでも記録映像を見たわけでもないので何ともコメントしようがないが。
 むしろ、今年の前半にドイツのドルトムントに滞在してつくったKids on sutraが気に入った。ホワ イトペーパーの上に自転車の轍が青く2本、斜めに交差するように引いてある作品なのだが、よ く見ると轍には漢字と梵字で経文が刻まれている。チベット仏教にはマニ車というものがあって、それを1回まわすとお経を1回よむ代わりになるのだと聞いたことがある。そのマニ車が現代の自転車になったことを想像させる作品なのだが、実は自転車のタイヤに実際に彫りこんでいるわけではない。消しゴム一つ一つに彫刻刀で1文字ずつ彫って並べ、あたかも自転車のタイヤに経文が彫り込まれているかのように見せかけたものなのだ。それはイマジネーションを刺激するともに、聖性の世俗化についても考えさせられる作品となっている。そういえばこの作品がつくられたのは中国のチベット問題が大きくクローズアップされた時期と重なっており、漢字による経文とサンスクリット経文の交差は政治と宗教の関係にもつながるように思われる。
 なお、以下の画像は有佐氏からいただいたKids on sutraの画像。クリックすると拡大します。

Kids on Sutra1 Kids on Sutra2

スポンサーサイト