チームラボin佐賀 

追われるカラス
 先日、老親を連れてチームラボと佐賀 巡る!巡りめぐって巡る展に行った。これは佐賀県内の4つの県立ミュージアム――佐賀県立美術館、九州陶磁文化館、名護屋城博物館、宇宙科学館――に猪子寿之率いるチームラボ(=teamLab)が制作したメディアアートを展示(というか装着?)する試みであり、佐賀県とチームラボが協働しておこなうアートツーリズム促進策である。
 一つだけ距離の離れた名護屋城博物館の作品は見逃した。ここで新作の「増殖する生命」が初展示されていたことは後になって知る。イカで有名な呼子も近いことだし、ホントウは寄りたかったのだが、歩行の難しい95歳の老父を連れての1泊旅行だったためやむを得まい。

 佐賀県立美術館ではまず「Nirvana」。伊藤若冲作の桝目画『鳥獣花木図屏風』に基づく作品。チームラボは制作にあたり、まずはCGを用いて仮想的な3次元空間上に動植物を3次元立体として再現し、彼らの考える「超主観空間」――西洋の遠近法とは異なる日本特有の空間認識――でもって伝統的な、パースのない平面に写像する、というプロセスを採っている。若冲の絵画には仏教の日本的受容――つまり、草木国土悉皆成仏動物という言葉に代表されるような、人間や動物のみならず植物や石ころや川の水にも生命が宿るとする本覚思想が表現されている。ピクセル画の生命。
nirvana nirvana

 次に「憑依する滝」。3次元CGで岩を立体的につくりだし、無数の水の粒子の連続体で粒子間の相互作用を計算し、水の運動シミュレーションを構築している。ただ、サイズや展示場所の光の問題もあろうが、CGが生々しいし、現在のRGBの色空間では滝の繊細な色づかいまで再現するのは困難な気がする。ただ、狙いどころは良い(上から目線だなw)。千住博の描く滝と比較するのも面白いだろう。


 続いて「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして分割された視点」。やはりサイズの大きさというのは重要。八咫烏が戦闘機のように飛び交う動く物語絵。『超時空要塞マクロス』等のアクロバティックな戦闘シーンを手がけた優れたアニメーター、板野一郎の「板野サーカス」にオマージュを捧げた作品だという。それは画面全体を埋め尽くす戦闘機やミサイルを、視る人がダイナミックさや迫力を感じられるよう、あえて歪んだパースペクティブで描くというもの。光の反射によって暗いリノリウムの床があたかも水鏡のようになって美しい。
追われるカラス 追われるカラス
追われるカラス 追われるカラス

 館内の他の展示もあわせて観る。野村昭嘉の絵画作品を発見。ビル工事に使用される巨大杭打機が転倒して26歳で亡くなったという彼の作品展を昔、目黒区美術館でみたおぼえがある。佐賀市出身だったとは。宮崎アニメに登場するような、夢の中を浮遊する幻想的で懐かしいブリキの器械を描くのを得意とした美術家だ。

 佐賀県立宇宙科学館では、インタラクティブ作品の「まだ かみさまが いたるところにいたころの ものがたり」。映像を映し出した壁の上方から降ってくる象形文字に手をかざすと、その文字に関係する物語が立ち上がり、そこから生まれたものたちが互いに影響しあうという、相互作用する世界の提示。パネルには象形文字という概念、パターン認識力、因果関係把握力が身につくと期待される、とパネルの解説。白川静ワールドはデジタル時代においてますます重要になっている。ソニーのレーザー光源データプロジェクターVPL-FHZ55(最大輝度:4000ルーメン)を使用。チームラボは絵師やCGアニメーターだけでなく、プログラマーやUIエンジニア、コンピュータビジョンエンジニア、ネットワークエンジニア、編集者等々、情報社会のさまざまなものづくりの専門家からなる、との説明あり。キャリア教育という点からすれば、子どもたちが興味を抱いたとき「どういう勉強をすると、こういう面白い仕掛けができると思う?」と子どもに問いかけ、数学や言語(自然言語も人工言語も)や工学的考え方(工学というと"理系"と決めつける人もいるが、編集工学や物語工学のように文系ジャンルの「工学」もある)の重要性、そして何よりも素晴らしいアートに感動することの大切さを教えられるかがポイントだ。子どもたちのへの動機づけとそれを具体的な目標設定に結びつける仕掛けが求められる。それはチームラボの仕事というよりミュージアム・エデュケーションの仕事である。
GodsWereEverywhere

 下の画像に映っている光る立方体は、メディアブロックチェア。自由にジョイントしてベンチにもディスプレイ什器にも壁にもなり、色も含めて空間を変化させる行為そのものを楽しむ「New Value in Behavior」のコンセプトに基づいているとのこと。
メディアブロックチェアメディアブロックチェア

 嬉野温泉に一泊し、有田に移動して佐賀県立九州陶磁文化館。
「生命は生命の力で生きている」。太い墨の線がいつのまにか宙に浮く木枝となり、粉雪をまぶした枯れ枝に小鳥たちが飛来し、やがて梅の小花が咲きほころび、時とともにゆっくりと回転する木枝がいくつも芽を伸ばし、蝶を舞わせ、春の花々や若葉を生い茂らせていく、その移ろうさまが描かれる。
生命は生命の力で生きている生命は生命の力で生きている

冷たい生命↓
冷たい生命冷たい生命

「世界はこんなにもやさしく、うつくしい」↓


 有田は言わずと知れた焼き物のメッカ。陶磁文化館では蒲原コレクションなど併せてみる。そういえば美術手帖2013年 12月号 は陶芸を特集していた。「用の美」としての陶芸は実に深い世界を有しているが、車椅子を押す身としては集中してみて廻るわけにもいかない。
 名護屋城博物館を諦めたので時間が余る。《秩序がなくともピースは成り立つ》のノン・インタラクティブ・ヴァージョン?が展示されているというので、TSUTAYAのCCCに指定管理を委託するなど先進的な試みで知られる武雄市図書館でも覗いてみようかと思ったが、カーナビで検索できず(タケオトショカンでなくタケオシリツで探したのがいけなかったか?)、持参したNexus7をカバンの中から取り出そうとすると老父が「早く帰ろーやー」とぼやくので諦める。武雄市は教育分野等でさまざまな新しい取り組みを行っており、全国的にも要注目の自治体である。

 日本の伝統的な美学を再解釈するチームラボの作品は、超保守的な年寄りも安心して連れていける。インタラクティヴな仕組みにも「生まれて初めてみた」と感心していた。とはいえ、和食しか食べない人も中にはいるが、現代の日本人の多くは洋食や中華やエスニックも好む。あらゆる日本の現代アートが「和風」を目指す必要はないし、むしろさまざまな美意識を楽しめる方が好い。個人的には音楽が保守的に過ぎるように思えたが、日本のマジョリティの嗜好に合わせたというところだろうか。チームラボの試みは、西洋的な美学にただ憧れる時代が終った90年以降の日本にみられる「J回帰」傾向に沿っているようにみえる。和の深遠をあらわすには色空間にせよ解像度にせよ、今のデジタル技術ではやや物足りないが、そうしたクオリティの問題は時間と資本が解決するに違いない。私自身としては「日本であること」の連続性に沿った自己複製より、世界じゅうのさまざまな美学や今までにない美と戯れまじりあうハイブリットやキマイラの狂態が見たいのだが、それはただのワガママというものだろう、か。
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