豊島2016春(1)~豊島八百万ラボ 

豊島2016sp

 直島の本村港から高速船で豊島に渡った。
 家浦港に到着後、電動アシスト付き自転車を借りることにする。初めて利用するが別に操作が難しいわけではない。ただ、「アシスト」というだけあって、上り坂でペダルを漕ぐのが平地なみにラクになるわけではない。勾配のきつい坂でもゆるい坂をのぼる程度の脚力で済む程度。ただ、それでもじゅうぶん助かる。

 甲生まで行って『ネットで進化する人類』で読んだスプツニ!子の豊島八百万ラボ。

 スチール製の鳥居をいくつかくぐって左に曲がると古い屋根を載せた新築木造家屋が立っている。小さな庭先の隅には桑の幼木が9本。受付ブースにはモダン巫女風のめがねっ娘、奥には朱塗りのスティール製絵馬掛け。

豊島八百万ラボ 豊島八百万ラボ 豊島八百万ラボ

 古民家を改造したという会場は、成瀬友梨と猪瀬純の設計。二人は東京・渋谷のFabCafeTokyoや陸前高田のりくカフェ、「柏の葉オープンイノベーションラボ(KOIL)」(※三井不動産が手掛ける柏の葉スマートシティの中核的複合施設「ゲートスクエア」内にある)等を手がけた。

 会場には入り口が2つある。奥の方に入ると「研究室」になっていて、隣の「展示室」との間を仕切る棚の上には孵化器や消毒室、顕微鏡やビーカー、フラスコ、シリンダー、試験管などが所狭しと並んでいる。反対側の冷蔵庫の上には古いタイプのトースターやコーヒーミルもあってそれらしくつくってあるが、実際に使用された形跡はない。入り口を分けていることから、研究室として実際に使用する可能性を残しているようにも見えるが、あるいは「八百万ラボ」という名前を考えると、2000年代以降、日本各地で無数に乱立する自称「ラボ」なるものを、「誰でもピカソ」的に祝福しながら皮肉っているのかもしれない。

 中央のテーブルの上には、スプニツ!子自身の著書や先述の『ネットで進化する人類』のほか、グレゴリー・ストックの『それでもヒトは人体を改変する』やスーザン・クチンスカスの『愛は化学物質だった!? 脳の回路にオキシトシンを放出すればすべてはハッピー』、榎本知郎の『性・愛・結婚―霊長類学からのアプローチ (丸善ブックス)』、中村禎里の『魔女と科学者』等の書籍が参考書として観客の時間つぶしのために?並べてあって、アマゾンへのアフィリンクを貼るブログを書きやすくする配慮がある(今や踏んでくれる人なんてごくわずかだが)w。

豊島八百万ラボ 豊島八百万ラボ 豊島八百万ラボ

「展示室」の方に入ると、奥の座敷には古い糸巻き車や赤い繭を並べたザル、石井友幸らが戦前に著した「生物学」の本が置いてある。遺伝子組み替えしたカイコが吐いたという絹糸を編み込んだスカーフ。壁には蝶の標本箱……。
 なんらかの事件で社会的に葬られた天才的な理系女子が、同じ研究者だった祖母が暮らした島の古民家に隠れ住み、島民からは「魔女」と噂されながらも日夜怪しい実験を繰り返す……という物語的想像力を駆動するための装置だろうか。

 液晶モニターが掛けてあって、YouTubeでも見られるMVがときおり流れる。


 ビデオの主人公、豊田玉姫の口からセヅツ教授という名前が出てくる。説明員の話によると、これは実在する農業生物資源研究所の瀬筒秀樹のことらしい。医薬品等に用いる有用なタンパク質を、遺伝子組換えした蚕につくらせる研究を進めている。

 オキシトシンは母乳分泌や分娩時の子宮収縮を促進するホルモンだが、近年では恋人同士の愛情や夫婦・親子の絆を強め、利他的な行動に駆り立てる働きがあることが知られるようになってきた。脳内では報酬や快感と関わる側坐核や恐怖・情動に関わる扁桃体などにオキシトシンの受容体が多く発現している。オキシトシンを摂取すると、扁桃体の反応が弱まり不安感が軽減するという。とはいえポジティブな効果ばかりではない。嫉妬心を高めたり、人を信頼するあまり無警戒になって騙されやすくなるなどの副作用も指摘されている(金井良太『脳に刻まれたモラルの起源――人はなぜ善を求めるのか (岩波科学ライブラリー)』(p46~)。デートレイプに悪用されないか心配する人たちも少なくないだろう。

 このあたりも、運命なんて結果オーライだしぃ実験しなきゃわかんないじゃん!!というノリなのだろうか。一般人をハイリスクな科学技術の議論に巻き込む「反応する科学」ということで。80年代末から90年代前半にかけて「ドーパミン」や「セロトニン」が流行語になって(脳内麻薬なんて言われていた)一般人にまで浸透したが、「オキシトシン」という言葉も同様に今後流行っていくのだろうか。 余談だが、京都大学iPS細胞研究所では現在、ドーパミンをつくる神経細胞が減少するパーキンソン病に対して、iPS由来のドーパミン神経前駆細胞を脳に移植する治療法の開発を目指していると聞く。

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 日本神話とカイコとバイオテクノロジーを組み合わせたアイデアは悪くない。古代日本には蚕にまつわる伝説がいくつもある。『古事記』には、高天原を追放されたスサノオがオオゲツヒメに食物を求めたところ、ヒメが鼻・口・尻から食物を取り出して与えたため、怒ったスサノオに殺され、頭部から蚕が生まれ、目から稲が、耳から粟が、鼻から小豆が生じたという話が出てくる。『古事記』には古代瀬戸内海にまつわる話がいくつかあり、豊島も無関係ではない(小豆は同じ古事記の国産み伝説にも登場する小豆島と考えられるし、粟島も塩飽諸島に実在して瀬戸芸の舞台の一つだ)。また、日本に蚕をもたらしたのは芸能の祖神でもある秦河勝(→wiki)だと伝えられており、秦氏を祀る大避神社は豊島の北東約40キロに位置する兵庫県赤穂市坂越にある。「そーか!、赤いカイコ繭は"赤穂"を意味するのか!」なんてことは言わないが、ビデオでは豊島に祀られる豊玉姫と海幸・山幸伝説を扱っており、豊玉姫は秦氏の主神の一つだ。そこまで調べた上での作品かどうか定かでないが、だとしたら外の鳥居は秦氏に関わる三柱鳥居にするなどマニア心をくすぐる工夫までしてくれたら、荒俣宏的想像力豊かな歴史オタのオヂサンたちも喜んだだろうにw。

 ビデオを見ただけだと「小保方事件でミソついちゃったけど、リケジョの皆さん実験精神捨てないでヘンなものつくっちゃおう!!!」的バイオ女子応援歌にしか聴こえないが、ひょっとすると?いろいろと考えられているのかもしれない。とはいえ、アメリカではすでに鼻腔から吸入するオキシトシン・スプレーが販売されている。あえてカイコの遺伝子を組み替えてシルクドレスにする必要はあるのだろうか、とフツーの人は思うだろう。カイコそのものも繁殖性が高くなりシルクの大量生産につながるというなら、少なくとも経済的意味はありそうだが。オキシトシン蚕が現代の常世神に留まらないことを陰ながら祈っておこう。

 バイオアートは現在のところ日本では盛り上がりに欠けるが、セレブ系超高級雑誌なんかとプロモーションパートナーシップを結んだりせず、「ニフレル」のような新しい試みをおこなう水族館・動物園とタッグを組むと吉!なのではないか。ルシフェラーゼ産生遺伝子を組み換えた闇に光る魚をたくさん泳がせて見映えの良いバイオアートにするような(発想が貧困だなw)。「動物園」や「水族館」、「植物園」、「科学博物館」といったカテゴリーは古臭くなってきたので、新しい「バイオミュージアム」的な施設がこれから登場すると予想/期待する。バイオアートはそうした動きと連動するのが良いのではないか。

 瀬戸芸のアート作品は、福武財団が直島や豊島、犬島で運営するアートと、香川県が女木島・男木島・小豆島等で運営するアートに大別される。確かゲンロンでも話が出ていたが、それは「意識の高い民間富裕層」による/のための?「新しい公共」と、経済的and/or文化的・教養的に貧しい人びとまで包摂しなければならない地方自治体が担う「公共」の違いのようなものを反映させている観がある。もちろん車輪は二つ以上あった方が安定する。

 豊島2016春(2) に続く。
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