映画『凱里ブルース』 

 福岡国際映画祭でみたビー・カン(BI GAN)監督の『凱里ブルース』(中国/2015/113分)は、ウマいなあと思う半面あざと過ぎるとも感じる作品だった。

 舞台は中国南西部に位置する貴州省の都市、凱里。緑豊かな高湿な景観は日本に近いものを感じさせる。このあたりは日本人のルーツの一つとも言われるミャオ族の自治区にあたる。中尾佐助や佐々木高明ら文化人類学者は「日本の生活文化の基盤をなす主な要素が中国雲南省を中心とする東亜半月弧に集中するとして、類似した文化の広がる地域を照葉樹林文化圏と名づけた」(wiki:照葉樹林文化論より)。後半の舞台となる蕩麦の様子は、九州で言えば筑後川上流域の天ヶ瀬温泉郷あたりにも似た雰囲気が漂う。



 1970~80年代に製造されたような古いテレビの画面を使ってのオープニングタイトル。ノスタルジックな亜熱帯の都市景、懐かしさの漂う古い民家、場違いのミラーボールが落とす光のかけら、壁に描かれた円形のアナログ時計、坑道跡のようなトンネル、パワーショベルのユーモラスな動き、青い薄闇が立ち込める診療所の屋上、遠方に見える高層マンション群の量塊感。古い建屋のビリヤード場は、30年ほど前に旅行した青海省と共通する特徴だ。ビリヤードは古くから中国の地方に根付いた娯楽の一つだったに違いない。
 中国映画はそれほど見たわけではないが、それでもなお、いくつか「どこかで見たなあ」と思わせる映像の引用が続く。冒頭は金剛般若経の一節。ほかにも、詩的な言葉が美しい具象に満ち溢れた視覚イメージの間に貫入する。ミャオ族に伝わる野人伝説や犯罪歴を持つ男の話を含めて文学的想像力を刺激するところも盛りだくさん。さらには、映像のところどころに知覚トリックまで仕掛けてある。

 とはいえ、なんだろう。過去の名画のビッグデータを分析して高評価映像をデータベース化したものから数多く取り出してつなぎ合わせてみましたドヤ、というようにも見えてしまう。仏つくって魂入れず、とは言わないが、過猶不及――過ぎたるは及ばざるがごとし、という感じもする。ステディカムを駆使した40分以上に及ぶロングテイクも、ちょっとイニャリトゥをマネしてみました感がある。ただ、監督はなんと1989年生まれ。これからゆっくり時間をかけてオリジナルの作風を構築していくことが期待できる。

 音楽は侯孝賢(ホウ・シャオシェン)や賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の作品で名高い林強(→wiki)。ミャオ族の伝統楽器の演奏は観客の期待をずいぶんと引っ張ってようやく最後に届けられる。

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