ICF2016 

 10月19日、20日に虎ノ門ヒルズフォーラムで開かれたICF2016の登壇者によるプレゼンの一部が、こちら(→INNOVATIVE CITY FORUM 2016)で公開中。
 ぜんぶ視聴したわけではないが、いくつか関心をもった点をメモしておく。

 先端技術セッションでの北野宏明のプレゼンは、テーマが「人工知能と共生する社会」。
 AIは個々の研究の積み重ねだけによって、飛躍的に向上したわけではない。そこには、いくつかの「グランドチャレンジ」という大きな目標設定や競争の場があった。チェス名人との対決、IBMワトソンの「ジョパディ!」、将棋・囲碁電王戦など。1997年に始まったロボカップ(wiki)もその一つ。2003年~5年?まで連勝したコーネル大学のチームが、大会で培われた分散型ロボットの技術をウェアハウス・マネジメントに応用するためにKiva Systemsを立ち上げた。後にアマゾンに買収され、Amazon Roboticsとなった彼らは現在、倉庫内物流だけでなく、ピッキングの自動化に取り組んでいる。
「自動運転」は、日本でもDeNAとZMP社が出資してできた株式会社ロボットタクシーが、藤沢市で走行実験を進めている。一般人を乗せた自動タクシーの走行実験は世界初のようだ。
 AI&Roboticsには、物流管理や自動走行のような「都市の拡張」としての文脈とともに「人間の拡張」という文脈がある。MIT Technology Reviewが選ぶ35歳以下のトップイノベータ35人の一人に選ばれた遠藤謙(→wiki)のXiborgは、トップアスリート向けの競技用義足を開発。AIは身体的能力の拡張をとともに、SONY CSL MUSICでの作曲など「創造力の拡張」にも参入しつつある。
 北野はさらに、AIを「科学的発見能力」の拡張に活用しようとして、人工知能にノーベル賞をとらせることを目標にしたグランドチャレンジを提案している(人工知能学会誌2016年3月号に論文あり)。これまで科学的発見は「幸運な偶然」や「科学的直感」に依存してきたが、もっとシステマティックにできないかという視点から、AIの利活用を考える。たとえば現在、年間に150万本!もの論文が発表され、特定の専門分野だけに限っても「読解」に多大な人力を使っている。少なくともここに人工知能を使う余地がある。というのも、人間は言葉を使うせいでバイアスがかかり、見た通りに記述することができない。言語使用はコミュニケーションの基本だが、言語を使うがために不安定な現状認識、世界認識、推論をしており、伝達が歪められている(アルフレッド・コージブスキーやジョージ・レイコフの論文を例に出していた)。人間の認知能力の限界をAIが超えられるのではないか。科学的発見の分野でも、チェスや囲碁戦のときと同様に、AIによって大規模な仮説空間と大規模な探索と非常に高速な検証ができるのではないか、と主張する(北野が取り組んでいるシステム生物学(→wiki)やバイオインフォマティクスはまさにそういう分野だろう)。
 文明の進化は道具の進化であり、人類は知識を生み出すために道具を進化させてきた。今後はAIが自ら知識を生み出す時代となり、文明の加速度的進化がものすごくなるが、同時にAIが生み出した知識と、AIがどうやってその知識を生み出したのかを理解する人類の能力の限界とによって分裂が生じる危険性もある。しかし、われわれがうまくAIを使えば、それは人類の能力と知識の大きな外延となり、非常に面白い未来が開けてくるだろう、と結んでいる。

 プレゼン映像はないが、ネリ・オックスマン(Neri Oxman)も登壇したようだ。↓は2015年のTEDにおけるプレゼン。同じカイコを扱ったスプニツ!子の「豊島八百万ラボ(→ブログ)」と比較してみるのも一興だろう。


 ブレイス・アグエラ・ヤルカス(→wiki:Blaise Aguera y Arcas)による「マシン・インテリジェンス、その可能性と未来」。
 彼はマイクロソフトからグーグルに移り、機械知性グループのリーダーになった人。TEDでも人気のプレゼンター。マカロック&ピッツなど先駆者たちの時代から"冬の時代"を経てディープラーニングで再びニューラルネットが開花する歴史をたどった後、彼はニューラルネットの認識プロセス(例えば大量の鳥の視覚データから「鳥」を認識するプロセス)を逆に走らせることが創造的プロセスの根源だと言う。つまり、「鳥」の概念から実際の「刺激」を生み出すこと。
 ベンヤミンの『複製技術時代の芸術』を例にとり、「複製」と「創造」について語っていたが、イマイチ理解できなかった。
 また、レイシズムの問題がメディアの長年に及ぶネガティブな描写に由来する話などもしていた。注意していないと人々の振る舞いに影響するし、人工ニューラルネットがウェブ上のデータでトレーニングされた場合、同様のバイアスを身に着ける事態が生じてしまう。彼はニューラルネットに人種偏見、女性への偏見などが混入しないための方策を考えている。

 アルス・エレクトロニカの総合芸術監督ゲルフリート・ストッカー(Gerfried Stocker)の「POST CITY、その次に来るもの」は、最後に少し触れた「アニミズムとIoT」という話が興味深い。

 アート&クリエイティブセッションは、90年代には新宿アイランド計画等を手掛け、現在は森美術館の館長でKENPOKU茨城県北芸術祭2016の総合ディレクターを務めた南條史生がモデレーター。「未来のアジアのライフスタイル~歴史、文化、環境からの発想~」というテーマで、マレーシア、ベトナム、日本から3人がプレゼン。

 マレーシアのジョージタウン世界遺産公社ゼネラル・マネージャーであるアン・ミン・チーはストリート・フェスティバルの話など。

 a+u2016年7月号でも特集された、ベトナムの竹構造茅葺き建築で知られるヴォ・チョン・ギア(Vo Trong Nghia)。日本で建築教育を受けた彼の活動についてはこちら(→10+1の岩元真明による2015年9月の記事)でも見られる。プレゼンではホーチミンにおける彼の活動がメイン。竹の柱は、中に鉄とコンクリートを詰めて強化している。

 竹を編んで生まれるアジア的な空間は瀬戸芸・小豆島のワン・ウェンチー(王文志)作品など近年よく見かけるようになったが、耐久性を考えると、長期使用に耐えられるのか、という課題が残りそうだが。

 現代美術家の柳幸典は、犬島でのプロジェクト(→犬島2013)やARTBASE百島の話。広島県三原市の小佐木島を舞台とした小鷺島ビオアイル計画というのもおこなっていたと知る。

 外国人のスピーチは同時通訳者や視聴者(私)の知識的限界もあって伝わりにくいが、北野宏明のプレゼンは一般人にもわかりやすいし、一聴の価値がある。

 追記(2017/2/12)
 『現代哲学のキーワード』を読んでいたら、戸田山和久が執筆した第3章に、北野の「人工知能を科学的発見能力の拡張に活用しよう」という主張に関わる話が出てきた。
 科学哲学者ダーデン(→wiki:Lindley Darden)の試みなどを紹介し、人工知能研究は、一般的合理性とは何かを探求する規範的認識論の後継者(アンドロイド認識論)だと述べている。ちなみに、この第3章は戸田山の『知識の哲学』の改訂・要約版?という感じだろうか。

 文中敬称略。

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