映画『愛の歯』 

 福岡シネラで庄宇新(チュアン・ユイシン)監督の映画『愛の歯』(2007/35ミリ)。

 ある女性の1977年~87年までの"痛み"の軌跡をモチーフにした2007年製作の映画を、2017年に観たことになる。
 川上未映子のデビュー小説『わたくし率 イン 歯ー、または世界』も確か2007年で、どちらがどちらに影響を与えたのか、あるいは全く無関係なのか定かでない。

 映画は枠物語になっている。歯科治療を受ける一人の女性。時代は1987年。彼女は麻酔無しで歯を抜いても構わない。むしろ背中の古傷のほうが痛い、とつぶやき、場面は1977年の北京郊外の中学校に移る。
 古風な校舎の間を歩いて登校するのは、デビュー当時のアグネス・チャンor裕木奈江風の"儚げ清楚"な女子中学生。屋上で「アイツ森の中でオトコとヤってたの見たよ」と心ない陰口を叩くのは、今や死語と化した「スケバン」たち。さすがにロングスカートとかぺちゃんこカバンはなかったがw。
 一瞬、主人公はこの裕木奈江風かと思ってしまうが、冒頭に登場した女性とは全く似ていない。不思議に思って見ていると、やがて実はいじめる側のスケバンの一人、イッテQのイモト風が主人公チェン・イエホンだとわかってくる。彼女は裕木奈江風のリンチエではなく、自分を選んで「恋文」までしたためた男子ホーに対し、この「恋文」をみんなの前で読み上げて彼の怒りを買い、レンガで背中を強く打たれる……。

 イエホンはその後、医大に進学するがインターンとして所属中の病院に入院してきた妻子ある男性と最初の恋に陥り、やがて妊娠する……。子宮収縮剤を使用し、交際相手に医学書を読ませて堕胎を手伝わせる様子を長々と描出。男性がゴミ箱に捨てた胎児から足がついて、風紀に厳しい共産党の指導によりイエホンはクビになり、食肉工場へ……。

 中学時代パートは日本でも昔は映画やテレビでよくあった、今ではベタ過ぎて見るに堪えない学園もの。すべてをセリフで説明しようとして省略がないのがツライ。映画が進むにつれて、作風そのものも子ども目線から大人目線へと変化していくが、かつての邦画の影響めいたものが随所に感じられる。

 ジャ・ジャンクーの『山河ノスタルジア』は以前観たので今回は飛ばしたが、両映画とも女性主人公の半生を中国の近現代史と重ねて描いている。『山河――』は『愛の歯』の終幕から10年後の1990年代末~近未来を描いている。映画としても監督自体が異なるが、2007年製作の『愛の歯』に比べると、2015年製作の『山河――』は遥かに洗練されている。ディスコの流行とクラブミュージックの浸透のタイムラグが日本と異なっていたのが面白かった。

 二つの映画を観て思ったのは、日中の映画の間にあるノスタルジーの相違だ。
 日本が戦後復興に伴って1950年代から朝鮮戦争"特需"をきっかけに高度経済成長を果たしたのに対し、中国が今日につながる経済発展を開始するのは、改革開放路線が始まる80年代といって良いだろう。中国はおおむね日本の半分の時間で近代都市化を経験したことになる。日本で70~80歳の人が感じるのと似たノスタルジー感を、中国では50歳くらいの人が感覚しているのではないだろうか。

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