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日経サイエンス2018年6月号 

 フロントランナー挑む:『胎児に刻まれた進化の痕跡』の著者、進化発生学(エボデボ)の入江直樹(東京大学)。『ゴジラ幻論 ――日本産怪獣類の一般と個別の博物誌 』等の著書がある倉谷滋の研究室にいたそうだ。生物の体に、変化しやすい部分と変化しにくい部分があることに着目、「予測性のある進化理論」の構築を目指している。

 NEWSスキャン:「ボノボは暴君が好き」は、進化人類学や動物行動学研究のある種の傾向に潜む擬人主義批判というか、後で出てくる「育ちが左右する自然観」と同じく実験に影響を与えるバイアスを問題にしている。「AIが作り出すリアルなフェイク画像」は、現在、グーグルブレインに関わるイアン・グッドフェロー(→wiki)らが2014年に発表した敵対的生成ネットワーク(GAN)。画像を作成する「生成ネットワーク」とその信憑性を評価する「識別ネットワーク」からなる。
育ちが左右する自然観」は幼児の環境教育に関わる比較文化論的実験。短く要約するのが難しいが^^;、要するに、アメリカの白人一般家庭で育った4歳児は、動物の玩具に人物属性を与える傾向があり、ネイティブ・アメリカンの家庭で育った4歳児は動物を動物としてとらえる、ということかな。白人/ネイティブ・アメリカン家庭の差だけでなく、幼児が動物が擬人的に描かれるTVアニメを視聴してきたかどうかという点も影響する(むしろそちらの影響のほうが大きい?)のではないかと思うが、詳しい実験内容はよくわからない。
脳のブレーキ」が面白い。PTSDのフラッシュバックや鬱病の強迫的マイナス思考等の侵入思考の問題は、思考の遮断を司る脳機能の障害から生じている可能性あり。通常、前頭前野に注目するところ、ケンブリッジの神経学者Michael Andersonらは海馬に着目し、海馬のGABA量により、思考抑制能力の予測ができることを発見。
DNAでできた時計」も要注目。テキサス大学オースティン校のDavid SoloveichikのDNA振動子(分子でできた時計)。人工細胞で生じる出来事のタイミング制御などにも使用でき、合成生物学のブレークスルーに不可欠になるかもしれないという。

「勝つための議論」の落とし穴:世の中には道徳的客観性、政治的客観性が存在すると考える「客観主義者」と「相対主義者」寄りの人がいる。ペンシルバニア大学Geoffrey P.Goodwinは、客観的・倫理的真実についての見方は、他者と相互作用する仕方を規定しているかもしれないと説いたが、記事の筆者陣は逆向きの実験を試みた。議論を「勝つための議論」と「学ぶための議論」の二つのモードに分けた場合、自分たちが実行している議論のモードが、議論している問題そのものに対する自分の理解を変えていると指摘。勝つための議論では単一の客観的に正しい答えの存在への信念を強化し、理解のための議論は逆に、異なる答えでも等しく正しい場合があることへの信念を強化する。
 記事の執筆陣にはエール大学の実験哲学者ジョシュア・ノーブ(→wiki:Joshua Knobe)がいる。ノーブの「実験哲学という実験」は2012年2月号。こういう思考/理解の科学とでもいうのか、科学と哲学の境界みたいな話はもっと増やして欲しいなあ。

 共感の功罪:共感にはおもに「情動的共感」、「認知的共感」(視点取得、心の理論)、「共感的配慮」(同情)の3つの主要構成要素がある。(フランス・ドゥ・ヴァールは、共感研究の先駆者という位置づけらしい)。ポール・ブルーム(→wiki:Paul Bloom(psychologist))の『反共感論』によると、認知的共感は素晴らしいが、情感的共感はないほうが良いくらい、という。

 頭のなかがぽややんとして、今月号はどうもうまく要約できない。最近、読みやすい本ばかり読んでいたせいか、それとも脳の老化が一気に来たのか? あるいは、今までちゃんと要約できていたつもりだったのが問題なのか^^;。より深い理解を得るためにはもっと関心範囲を絞ったほうが良いってのはわかってるんだけどね。または、あとでちゃんと読みたくなったときのための、ただのインデックスで良いような気もするしぃ・・ブツクサブツクサw。

【追記】18/06/23
 翌月号の「本の紹介」に出ていたスティーヴン・スローマンの『知ってるつもり――無知の科学』はよさげ。なるほど「説明深度の錯覚」かあ。
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