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アニメ映画『ゴッホ 最期の手紙』 

YCAMでアニメ映画『ゴッホ 最期の手紙』を観る。

 概要はこちら(→wiki)。

 昨今は高畑勲の『かぐや姫の物語』といい、ウェス・アンダーソンの『犬が島』(→ブログ:YCAM爆音映画祭)といい、ディズニー/ピクサーの3DCGアニメでもなく、日本のテレビアニメで培われたセルアニメでもない、かつてはアートアニメなどでしかみることのなかったような、独特の手法を取り入れた作品が劇場公開される機会が増えてきた。

 本作もその一本だ。

 以下、ネタバレ含む。

 ヴィンセント・ファン・ゴッホが亡くなった翌年の1891年を時代背景に、ゴッホの死の真相をめぐるミステリー仕立てとなっている。主人公の青年アルマン・ルーランは、郵便配達人の父親から、ゴッホが弟テオに宛てて出そうとして出し忘れた手紙を託され、テオを訪ねてパリに赴く。しかし、テオはゴッホの死から半年後に亡くなっていた。関係者を訪ねていくうちに、アルマンは、「自殺」とされていたゴッホの死の真実に接近していく、というもの。ゴーギャンとの関係がこじれた末のゴッホ耳切り事件にも触れている。

 登場人物はほとんど、ゴッホが描いた肖像画のモデルになった人びとだ。
 主人公の父親は、アルルの郵便配達夫ジョゼフ・ルーラン。ゴッホは一時期、肖像画に夢中で、貧しいルーラン一家は、家族総出で小銭稼ぎのためにモデルをつとめており、アルマンの肖像画もある。有名なタンギー爺さんや、ゴッホが通っていた精神科医のポール・ガシェ、その娘マルグリット、家政婦ルイーズ・シュヴァリエが登場する。ほかにも、ゴッホが最後に逗留していた宿の娘アドリーヌ・ラヴーや貸しボート屋、夜のカフェで働くラ・ムスメ(→wiki)――彼女はゴッホ追放の嘆願書に署名――も登場する。

 アルマン・ルーランがゴッホの死の謎を追うというストーリーの根幹はフィクションだろうが、ゴッホの生涯のエピソードや死の背景、登場人物の人物像は、脚本家による丹念な取材をベースにしていると思われる。

 動く絵画に目を奪われて、ストーリーの細部については記憶が曖昧だが、たぶんゴッホの死に関しては、『ファン・ゴッホの生涯』(スティーヴン・ネイフ&グレゴリー・ホワイト・スミス著) の巻末にある「補遺:フィンセントの致命傷に関する注釈」に示された通りだろう。ヴィンセント・ミネリ監督の映画『炎の人ゴッホ』(1956)が公開された際、カーク・ダグラスが演じたゴッホの「聖人伝的イメージ」に違和感を覚えたルネ・スクレタンという82歳のもと銀行家が告白した内容だ。ルネと兄のガストンは、1890年夏、オーヴェルにある父親の別荘で遊んでいて、ゴッホと知り合った。当時19歳の兄、ガストンは芸術や音楽を趣味としており、ゴッホとも親しかったが、16歳のルネは、仲間の悪ガキたちとともに、浮浪者風のゴッホをからかい半分に苛めて遊んでいたのだという。ゴッホを殺した銃は彼がもちこんだものだった。ルネ・スクレタンがゴッホの死に直接的に関わった可能性がある。真実は明らかになっていないが、なんとも苦い話だ。

 監督・脚本はポーランド生まれのドロタ・コビエラとイギリスのヒュー・ウェルチマン。後者は製作者でもある。

 ドロタ・コビエラはワルシャワ芸術アカデミーを卒業後、ワルシャワ映画学校監督学部に入学してアニメーションを研究。短編実写1本と短編アニメ6本を手掛け、『Little Postman』(2011)で世界初の立体視ペインティング・アニメーションを実現し、各地の3D映画祭で高い評価を得た。本作は当初、短編映画として計画されたが、プロジェクトが拡大して95分の長編映画となった。
   彼女の私的パートナーでもあるウェルチマンは、モンティ・パイソンの短編映画で製作の仕事を始め、ブレイクスルー・フィルムを設立。共同製作した『ピーターと狼』(→wiki:Peter and the Wolf (2006 film))はアカデミー短編アニメーション賞や、アヌシー国際アニメフェスの短編部門グランプリなどを受賞。

 撮影監督を務めたトリスタン・オリヴァー(Tristan Oliver)は、ストップモーション・アニメの専門家で、ウェス・アンダーソンの『ファンタスティック Mr.FOX』や『犬が島』の撮影も手掛けた。学生時代にはこちらで少し触れた『アナザー・カントリー』(1984)に出演した経験もある(らしい)。もう一人の撮影監督は、ポーランド生まれのウカシュ・ジャル。パヴェウ・パヴリコフスキ監督の『イーダ』(→wiki)で撮影を務めて高く評価された。

 音楽は、ダーレン・アロノフスキー映画で知られるクリント・マンセル。『ハイ・ライズ』(→ブログ)の音楽も彼。

 本作は125人の選ばれた画家がファン・ゴッホと同じ技法で描いた油絵をベースにしている。パンフレットによると、まずは、俳優たちがゴッホの絵画を忠実に再現したセット、あるいはグリーンバックを背景に演技して、トリスタン・オリヴァーらがそれを撮影し、デジタルの実写映像をつくる。キャラクター・デザイン・ペインターが、俳優たちの特徴を残しつつ、ゴッホの肖像画の風貌・雰囲気を伝えながら、ベースとなるキャラクター・デザイン画を描画。なお、映画では94点のゴッホの絵画がオリジナルに近い形で再現され、さらに31点が部分的に引用されている。
 続いて、ヒュー・ウェルチのブレイクスルー・フィルムが本作のために開発したPAWS(ペインティング・アニメーション・ワークステーションズ)97台を用いて実写映像を67×49センチのキャンバスに投影。
 3日間にわたる採用試験に合格した125人の画家が、トレーニングを受けてゴッホの技法を習得。画家たちは、デザイン画をもとに、担当場面の最初のショットをフルで描いた後、「次のフレームで動きが生じる部分を少しずつ動かして描き直し、ブラシストローク、色使い、インパストを前のフレームと調整することで、ショットのアニメーション化を進めてい」った。各フレームは、Canon6Dを用いて6K解像度で記録され、1秒間に12フレーム、合計で62450枚のフレームから成る本作品となった。パンフレットにはドロタ・コビエラとヒュー・ウェルチマンのほか、プロジェクトに参加した日本の油絵画家、古賀陽子のインタビューも載っている。



 文中敬称略。

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