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映画『チューリップ・フィーバー』 

 熊本のサンロード新市街にあるDenkikanで、ジャスティン・チャドウィック監督の映画『チューリップ・フィーバー』を観る。

 概要はこちら(→wiki)。

 時代背景は1634~37年頃のアムステルダム。日本でいえば、『沈黙 サイレンス』の頃だろうか。ヨーロッパに市民社会が誕生したこの時代は、デカルトやホッブスやミルトンが活躍した時代(→ブログ:デビルマンからミルトンへ)であり、同時に世界初のバブルに沸いた時代だった。デカルトが『方法序説』で平面上の座標の概念を確立したのが1637年。イアン・ハッキングの指摘によると、「確率論(統計的推論)」はこの時代の後、1655~1665年頃に誕生した。

 おもな登場人物は、貿易で富を築いた中高年のコルネリス(クリストフ・ヴァルツ)と彼に見初めれて結婚した、もと孤児のソフィア(アリシア・ヴィキャンデル)。コルネリスに肖像画を依頼された画家のヤン(デイン・デハーン)、コルネリス家の小間使いマリア(ホリデイ・グレインジャー)とその恋人で魚売りのウィレム(ジャック・オコンネル)。ソフィアとヤンの不倫の恋とマリアとウィレムの恋愛模様が描かれる。

 17世紀のオランダ絵画に描かれる豊饒の記号――果物、野菜、花、肉、魚、陶器――や猥雑な市民生活の様子がよく再現されている。

 この時代、オランダはスペインと戦争を繰り広げて独立を勝ち取り、(不充分とはいえ)連邦共和制を打ち立てた。16世紀の大航海時代を通じて、コロンブス交換(→wiki)と価格革命(→wiki)がヨーロッパの政治・経済・社会を激変させた時代、カトリックの迫害によりスペインを追われたユダヤ人は、地中海経済圏に広がっていたイスラムの「手形」をアムステルダムにもたらした。これによって、海運に必要な莫大な資金の調達が遥かに容易になった。
 オランダ人は測量技術を発展させ、海図・地図づくりに励んだ。ニシン漁船を改良して、重くかさばる積荷を運ぶのに適した平底の貨物船を開発し、激安運賃で貨物を運んだ。そうしてスペイン・ポルトガルを追うように世界に乗り出し、東南アジアや東アジアでポルトガルから香料貿易を奪い取り、日本からスペインを追い落として銀の交易を独占した。
 1602年には世界最古と言われる証券取引所が完成し、オランダ東インド会社(VOC)が創設。1609年にはアムステルダム為替銀行が立ち上がる。為替銀行の口座上で記号・数値化された貨幣が通貨とみなされ、世界初の「預金通貨」(→wiki)が誕生した。
 こうして海運業と造船、商業、出版、金融をうまく総合することで、オランダは飛躍的な経済発展を遂げた。

 wiki:チューリップ・バブルによると、一般的にチューリップをヨーロッパにもたらしたのは、神聖ローマ帝国のオスマン大使、オージェ・ギスラン・ド・ブスベック(→wiki)だと言われている。そして、マクシミリアン2世のウィーン薬園に雇われていたカロルス・クルシウス(→wiki)が、ルドルフ2世(→ブログ)に解雇され、ライデン大学植物園でチューリップの栽培や品種改良をおこなった。品種改良されたチューリップの球根への投機は、ある意味、世界初のバイオ・テクノバブルと言えるかもしれない。



 映画では「窓辺で手紙を読む女」などヨハネス・フェルメールの絵画へのオマージュが色濃く、画家ヤンは最初、後のフェルメールなのかな、と想像したが、時代背景はフェルメールが誕生した時期と重なる。そのヤンの口からは、ヴァニタス(→wiki)という言葉が呟かれる。

 燃えさかる恋の炎はチューリップバブル。恋はスペキュレーション(投機)と言いたい話なのだろうか。たしかにフランドル絵画を意識した絵づくりは最初、とてもキレイに感じたが、共感フックが足りなかった。裕福なコルネリスを傲慢に描かず、哀れな寝取られ男として描き、画家ヤンを、球根投機に夢中になる俗っぽい若者として描き、恋愛や家族を崇高なものとして描いていないのは好感持てるのだけど、なんか登場人物の誰にも共感できなかった。

 ソフィアを演じるのは、映画『エクス・マキナ』でガイノイドのエイヴァを演じたアリシア・ヴィキャンデル。聖ウルスラ修道院長をジュディ・デンチが演じている。

 参考文献:宮崎正勝の世界「経済」全史



 文中敬称略。

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