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映画『エクス・リブリス ~ニューヨーク公共図書館』 

 YCAMスタジオCでフレデリック・ワイズマンの新作『エクス・リブリス ~ニューヨーク公共図書館』を観る。

 ワイズマンはこれまでも、高校や病院、少年裁判所、公園(『セントラルパ-ク』)、動物園、州議会、美術館(→『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』)など、公共の施設を撮り続けてきたが、今回のテーマは図書館。具体的には、ニューヨーク公共図書館(以下、NYPLと略す)に集まるスタッフや関係者、来館客の言動を観察/記録する試みだ。



 『世界の夢の図書館』や『世界の美しい図書館』という本が2010年代になって日本でも出版されたように、「観光の世紀」と呼ばれる21世紀の現在、いくつかの歴史ある図書館は今や世界的な観光資源となっている。映画では、荘厳なボザール様式のNYPL本館のエントランス・ロビーでスマホ撮影する観光客を何人か映している。

 とはいえ、図書館は本来、観光資源として築かれたわけではない。

 イギリスの植民地では、17世紀半ばまで書籍はいっさい刊行されなかった。
 英語圏植民地に最初に印刷機が届いたのは、ハーバード・カレッジ初代学長、ヘンリー・ダンスターの自宅だった(*1)。ハーバード大学の前身は、有力な個人が寄贈した本をベースにつくったイギリス系アメリカ最初の私設図書館だった。以来、アメリカの教育施設は、図書館の成長とともに発展した。

 アメリカ建国の父のひとり、ベンジャミン・フランクリン(→wiki)は12歳の頃から兄の印刷会社を手伝い、後に自分で印刷・出版業を興した。1931年に会員制のフィラデルフィア図書館会社を設立。これがアメリカ公立図書館の発祥となった。
 1800年、アメリカ政府が首都をワシントンに定めると、政府は直ちに議会図書館を創設。第3代大統領トマス・ジェファーソン(→wiki)は図書館に多大の関心を抱き、今日のアメリカでは議会図書館の父と呼ばれている。最初の議会図書館がブログ:映画『ピータールー マンチェスターの悲劇』でも触れた米英戦争でイギリス軍に破壊された際、大規模な私設図書館を所有していたジェファーソンは、すぐに自分の私設図書館の売却を申し出た(*1)。

 1888年~1905年までニューヨーク州立図書館に勤務したメルヴィル・デューイ(→wiki)は、図書館の近代史を語るうえで最重要な人物のひとりだ。図書分類法であるデューイ十進分類法の考案者であり、アメリカ図書館協会の創設者でもある。
 タイトルのエクス・リブリス(Ex Libris)は蔵書票という意味だが、映画ではデューイの名前に触れていなかった(ような気がする^^;)。wiki(2019/9/13)に記された、デューイが極度の人種差別者、反ユダヤ主義者、反フェミニストだったことが影響しているのかもしれない。

 映画ではむしろ、製鉄事業で莫大な富を築いたアンドリュー・カーネギーによる寄附の重要性に触れている。カーネギーは1600以上の無料公立図書館を寄贈した。カーネギーやその他の私人の寄付により、NYPLは多くの分館を設立していった。

 映画では、NYPLの幹部ミーティングの様子が何度も映し出される。分館は教育機能に注力するという方針。電子書籍やデジタルデバイドへの対応、情報弱者をつくらないという基本認識の確認、公民連携(PPP)の重要性やホームレスの貸し出し、予算配分をめぐる議論。

 NYPLでは、さまざまな活動がおこなわれている。

 寄附を募るための説明会。就職フェアをおこなう分館もある。JR熊本駅東口に立つくまもと森都心プラザに入った新しい図書館では、ビジネス支援センターを併設していたので、日本でも図書館に就職や起業のための相談窓口を設ける動向があるのだろう。

 ある分館では、ニューヨークのユダヤ・コミュニティにおけるデリの重要性を語るレクチャーが行われている。(ちなみに、NYPLにユダヤセクションを寄付したのは、日露戦争の際に日本に2億ドルの融資をおこなったジェイコブ・シフ(→wiki)。

 「イノベーションラボ」と題して、子どもたちにロボットのプログラミングを教える分館もある。

 近年、日本でも増えてきた読書会の様子も映る。映画化もされたガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』について熱心に意見を述べる高齢者たち。点字・録音ライブラリーでは、ナボコフの『マルゴ』を収録中。

 NYPLには研究図書館が4つある。
 ハーレムにある『ションバーグ黒人文化研究センター』は開館90周年を迎える。祝賀会では代表がスピーチのなかで黒人女性作家トニ・モリスン(→wiki)の言葉「図書館は民主主義の柱」を紹介する。

 『舞台芸術図書館』では手話通訳者へのレクチャーがおこなわれる。感情の違いで読み方がいかに異なるかが示される。

 大量の本がベルトコンベアで運ばれ、バーコード・スキャンにより次々に振り分けられていく様子が映る。借りた分館とは異なる分館に返却するケースが多いのだろう。NYPLは分館の数が80以上もある。

 図書館では有名人を招いた講演もおこなわれている。

 冒頭に登場するリチャード・ドーキンスは、いまだに進化説に懐疑的なキリスト教原理主義の問題点を指摘する。


 エルヴィス・コステロが父親のミュージシャン、ロス・マクマヌス(→wiki:Ross McManus)のミュージッククリップを紹介するとともに、マーガレット・サッチャーへの恨み言を口にする。パティ・スミスがジャン・ジュネの『泥棒日記』への愛を語る。
詩人のユーセフ・コマンヤーカ(→wiki:Yusef Komunyakaa)や日本でも『世界とぼくのあいだに』等の訳書があるタナハシ・コーツも登場する。

 マイルズ・ホッジス(Miles Hodges)のスピーチは、スポークン・ワード(→wiki)というのだろうか。詩のようなスピーチが限りなく歌に近づくポエット&パフォーマンス。観客席から赤子の泣き声が混じるところがライブだ。


 (*1)『図説 図書館の歴史』スチュアート・A・P・マレー(著)

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