山陰アートツーリズム(2)~古代出雲歴史博物館 

 槇文彦というと、代官山ヒルサイドテラスや青山のスパイラル、幕張メッセ等の設計者として名高い。
 確か1992年~94年だろうか、恵比寿に住んでいた頃は土日になるとよく、中目黒に住んでいた友だちと代官山を散歩して、ハリウッド・ランチマーケ ットで買物し、メキシコ料理屋の「ラ・カシータ」や「小川軒」でランチをしたものだ。ハリランの向かいにあったヒルサイドテラスはとても落ち着く 場所で、いつかこういうところに住んでみたいと思ったものである。
 ヒルサイドテラスは第1期が竣工した1969年からヒルサイドウエストが完成する99年まで、30年にも及ぶ歳月をかけて形成された。それは地方から東京に出て来た者にとって「天下を睥睨するような高層建築などダサイ、低いスカイラインで緑豊かな田園都市風こそが洗練された都会人の理想の住まいなのだよ」と「教育的」に語っているかのようだった。
 ヒルサイドギャラリーをはじめとしてアートギャラリーも随所に点在しており、川俣正のインスターレーションに初めて触れたのも代官山だったと記憶している。今でこそ「アートによるまちおこし」は日本全国で腐るほど見かけるが、北川フラムのアート・フロントが代官山で仕掛けた「現代アートによる環境づくり」「アート・オリエンテーリング」こそはその日本における先駆けの一つだったに違いない。「アートによるまちおこし」を本気で仕 掛けるつもりなら、この代官山の先進例をまずはじっくりと批判的にレビューすることから始めるべきだろう。
 ちなみに、槇文彦もメタボリズム・グループの一人だったが、実際のメタボリズム運動からはやや距離を取っていたかのように見える。「われわれは、歴史の新陳代謝を、自然的に受入れるのではなく、積極的に促進させようとするものである」というメタボリズムの息巻くような宣言文は東京生まれで東大~ハーバード大学大学院という都会的でスマートな槇には似つかわしくない。しかし、30年の歳月をかけた代官山ヒルサイドテラスこそは、環境が時とともに変化することを想定して、その都度可変部分を取り換えていくという意味で、槇の考えるメタボリズムだったのではなかろうか。

古代出雲歴史博物館0
 その槇文彦が21世紀になって手がけたのが島根県立古代出雲歴史博物館である。ゆるやかな稜線の北山山系を背にして水平性を強調したシルエットが美しい。フラットルーフの本館のライトブラウンの外壁はコールテン鋼。古代出雲のたたら製鉄にちなんで用いたというが、槇は大分県中津市の「風の丘葬斎場」でもそれを大きくフィーチャーしている。
古代出雲歴史博物館2 古代出雲歴史博物館4
 本館と同じコールテン鋼のゲートを抜けると桂の並木道が続いていて、視線の彼方にガラスのエントランスホールが待ち受けている。
 広大な面積の庭園には余計な植栽や彫刻はいっさいない。資料(*)によるとランドスケープデザインを手がけたのは三谷徹。槇と同じくハーバード大学大学院の修士課程を修了し、ミュンヘンの「イザール・ビューロ・パーク」をはじめとして「風の丘葬斎場」や新潟の「朱鷺メッセ」でも槇と組んでいる。槇文彦はヒルサイドテラスのプランでも言えるが建物自体の建築計画よりも建物が描くシルエットや背景となる地勢を含めたランドスケープ全体を考慮したデザインに関心が強い。
古代出雲歴史博物館1 古代出雲歴史博物館6
 3層吹き抜けのエントランスホールは1階がミュージアムショップとロビー、2階はカフェと通廊、3階は展望テラスになっている。槇文彦へのインタ ビュー記事(*)によると、展望テラスの高さは現地でクレーン車を用意して出雲大社の千木が見える位置を確認して設定されたという。
 エントランスホールの北側には水盤があり、ふたたび広大な芝生の庭園が広がっている。庭園の西側には南北にまっすぐ続く園路が設けられており、 展望テラスの解説図によると、『出雲風土記』の国引きの一節が彫りこまれているという。
古代出雲歴史博物館7 古代出雲歴史博物館5
 三谷徹は「食と緑の科学」第63号に寄せた論文で、2000年のシドニーオリンピックのランドスケープデザイン等を手がけたランドスケープアーキテクトのジョージ・ハーグリーブスによる敷地の環境を空間の身体性(physicality)と叙述性(narrative)の2極操作によって新たな空間を創造する視点を援用して、古代出雲博物館のランドスケープデザインを解説している。そこで彼は、園路(=風土記の道)について触れ、単純で説明しやすい象徴性、具体的な由来を空間デザインに直接結び付けることは庭園をテーマパーク化してしまうとして退け、空間構成そのものの形ではなく、その要素のディテールに隠しこむことにしたと語っている。
 そう、叙述性=物語性はほの見えるくらいが美しいのである。

(*)日経アーキテクチュア2007.7.9の特集記事  

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