猪熊弦一郎現代美術館 

猪熊弦一郎現代美術館1
 猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)は、丸亀駅のすぐ隣に立っている。
 葛西臨海水族園や豊田市美術館、MoMA新館等の設計で知られる谷口吉生の建築は、1991年の竣工から20年以上立つというのに全く古びていない。

 正面ゲートプラザの左方には屋上階まで上る半屋外の大階段がついていて、そのたもとの風除室を通じて中に入る。

 一階の開放的な吹き抜けロビーには受付やミュージアムショップ等があり、展示室は2階と3階にある。
 平日の開館時間10時に合わせて入館したせいか、観客は私一人。監視員に見守られながら天井の高い広い空間を独占し、静謐な環境でゆっくりと作品を鑑賞できるのは何ものにも代えがたい贅沢、まさに王侯気分。直島にある内藤礼の「きんざ」は、一人ずつ15分間、作品に対峙できる仕組みを取っているが、アートの価値が作品そのものより作品と鑑賞者が共に創りだす時空間的経験に置かれる傾向にある現在では、そうした質の高い鑑賞経験の担保は今後とも重要になるだろう。もちろん大勢の人と順路に従って観て回ることを否定するつもりはないが。ちなみ館内は11時前くらいには人が増えてきた。
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 猪熊弦一郎は1902年生まれで、東京美術学校(東京芸術大学)で藤島武二に師事し、帝展に入選した後、帝展改組をきっかけに小磯良平らと新制作派協会を設立した人。その後、フランスに渡りアンリ・マティスに師事。1955年~73年にかけてニューヨークに移り住み、イサム・ノグチやジョン・ケージ、マーク・ロスコら著名なアーティストと交流した。香川県庁舎建設の際、丹下健三を県知事に推薦したのは猪熊だった。丹下健三の初期3部作の一つとされる香川県庁舎は、戦後の地方自治体庁舎建築のモデルになった。
 猪熊の絵画作品は、写実的な人物画・肖像画からマティス風、丸・三角・四角といった基本図形のみを用いた抽象画、アンフォルメルまで、スタイルが多彩に変化する。

 3階の企画展『変化と不変』では、絵画作品のかたわらに白い紙が付着していて、複数の絵に共通するのは何でしょう?などと記してあり、美術制作に重要な「構図」や「パターン」の存在を子どもたちに教える役割を担っている。美術鑑賞に解説は要らない、という人もいるが、幅広く多くの人に見てもらうには美術館サイドとしても解説を求めるニーズに応えていかなくてはならない。解釈の強制にならない背景的解説や、解説を嫌う人に邪魔にならないような工夫が求められる。美術館にとって、そしてアートにとって、「作品解説」は大きなテーマの一つと言えるだろう。


 3階展示室からは屋外に出てカフェやカスケードプラザにアプローチできる。
 カスケードプラザには黄色いパイプライン彫刻と自然石が置かれ、北側は壁一面に水がしたたり落ちる滝のオブジェになっている。
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 自然石は香川に縁の深いイサム・ノグチの協力者・和泉正敏の寄贈によるものだそうだ。

 時間に余裕があったため、2階の美術図書室で「優雅な」ときを過ごす。
 建築家の古谷誠章(ふるやのぶあき)が執筆した谷口吉生「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館・図書館」―建築を見る (エスキスシリーズ)を借りて少しだけ拾い読みする。解説が詳細で大変ためになる本。本書によると丸亀駅前広場を含むランドスケープ・デザインは、豊田市美術館でも谷口と組んだピーター・ウォーカー。総合コーディネートは都市計画家の加藤源
 『ランドスケープデザインの歴史』を読むと、ウォーカーはインタビュアー(佐々木葉二)に対し「我われはランドスケープ界のロックンローラーにならなければならない」とアジテートしたという。ミニマルアートの影響が強く、フランク・ステラの額縁のないミニマル・アート絵画を着想源に、ランドスケープデザインは「壁なしで空間をつくること」だとする基本思想を打ち立てた。実現手法として、①ジェスチャー(軸線の周囲に風景を構成)、②表層のハード化と平面化(領域性の主張のための強い平面デザイン)、③反復的配置(単純なストライプやグリッドの反復で空間のリアリティを際立たせる)の3つをあげており、駅前デザインにもそれらを反映させている。彼は日本でも東京タワーや芝公園緑地化の基本計画に参画し、最近ではさいたま新都心けやきひろばや川崎のソリッドスクエアなどを手がけている。

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 図書室には高額建築雑誌『GA DOCUMENT』が置いてあって、122号でコープ・ヒンメルブラウの釜山シネマセンターやフランク・ゲーリーの香港レジデンシャル、隈研吾の新津 知・芸術館、123号でSANAAのルーヴル・ランス、モーフォシス(トム・メイン/ジェームス・スタッフォード)の中国国立美術館、ザハ・ハディドの望京SOHO等により眼福を得る。CAD技術や建材の進化に伴って現在の建築はより大胆な流線型を取り入れる傾向が強い。それに強く惹かれるのも正直な事実だが、だからこそ谷口の禁欲的なモダニズム建築の素晴らしさが際立って見えるとも言える。
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