映画『オールド・ドッグ』 

 福岡シネラの中国インディ映画特集で、ペマ・ツェテン(Pema Tseden)監督の『ティメー・クンデンを探して』(→ブログ)と『オールド・ドッグ』(老狗)をみる。

『オールド・ドッグ』は2011年の作品。こちらは日本語だけでなく中国語・英語の字幕も付いている。

 『ティメー・クンデンを探して』では特徴的な長回しが多かったが、本作はそれほどでもない。撮影はどちらも『陽に灼けた道』(2010)の監督でもあるソンタルジャ。両方ともデジタル撮影だが、本作では明るいレンズを使っているのか(?)、全体的に雰囲気が異なる。ときおりフォトショで明度を上げたときのようにやや白っぽくなることがあって、そこがちょっと、いかにもデジタル映像らしくて気になったが。

『ティメー――』では標高の高いチベット高原が舞台だったが、本作では(たぶん)監督の出身地であるアムド地方(または青海省)が舞台。大地に緑が豊か。

 主人公コンボの父親は牧羊を営んでいる。羊よりもオートバイを好むコンボは、父親が飼っている牧羊犬を内緒で街に売りに行く。従兄弟の警官ドルジェの助けもあって高額で売れるが、年老いた父親は、売却先のワンから犬を買い戻す。父親は遊びまわるコンボとその妻ルンツォの間に子供ができないことが気がかりで、二人に病院で調べた方が良いと勧める……。

 本作は、1990年代末頃から中国の富裕層の間でチベット犬(→wiki:チベタン・マスティフ)ブームが発生してブローカーが暗躍し、犬泥棒が横行するようになった世相を背景にしている。昔、チベットを旅行したときは、各地でチベット犬を数多く見かけたが、『ティメー――』では確かにチベット犬が全く映っていなかった。

 コンボの妻ルンツォは素朴な女性で、『ティメー――』に登場した若い女性と同じく従順でほとんど口を開かない。中国の都会でよく見かけるおしゃべりで活発な女性たちとは対照的だ。
 それはチベットの伝統社会における女性の立場を示している。映画に登場するテレビ映像は、著しい経済成長を遂げた中国の拝金主義を示す映像や声に満たされて、いわば中国の急激な近代化・都市化に対する批判となっているが、いっぽうで、チベットの伝統社会で抑圧される女性のあり方についても隠そうとしない。



 以前みたフランマルティーノの『四つのいのち』ハーバード大学感覚民族誌学ラボの『Sweetgrass』でも牧羊の様子が描かれていたが、チベットであれ、イタリア南部のカラブリア州であれ、アメリカ・モンタナ州であれ、伝統的な牧羊業には牧羊犬が欠かせない。牧羊犬は紀元前4300年頃のトルキスタンでも飼育されていたようで、羊たちの群れを誘導したり、羊泥棒や捕食動物から群れを守る役割を果たしている。チベット犬は父親にとってはずっと一緒に働いてきた愛すべき片腕であり、友であり、家族なのだ。金に代えられるものではない。

 中国社会が大きく変貌する時代、最後の場面で父親が下す決断はあまりに切ない。

 以前、ブログ(上海~青海省1987)に書いたように昔、青海省とチベットを旅行したことがある。下の写真の左端に映っている黒犬がチベット犬。
 チベット犬と羊
 狂犬病をもってると聞いたので、ラサ市街を夜、散歩する際に吠えたてられ、とてもコワかった^^;のをおぼえている。

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