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『RIVER OF FUNDAMENT』(2) 

 『RIVER OF FUNDAMENT』(1)の続き。

 第2幕の冒頭では、ノーマン・メイラーの邸宅地下でノーマン2世が誕生する。扮するのはアルバート・アイラーやサン・ラ、ジョン・ゾーンらとも共演したフリージャズ・ドラマーのミルフォード・グレイブス。メモリアル・パーティーの方は次第に酒やドラッグが入ってきて乱れていく。
 舞台はデトロイトの工業地域に転じる。第1幕の冒頭近く、トイレの壁でみた写真のハリー・フーディーニ(→wiki)へのオマージュ。ノーマン・メイラーは生前、『クレマスター』でフーディーニを演じた。魂と人の関係は、人(フーディーニ)と自動車の関係に転じる。黄金のポンティアク・トランザムに縛られ押し込められた黄金のノーマン2世は、橋の上から車ごと川に落とされる。
 オシリスとイシス、セト、ネフティスの神話劇。弟のセトは兄オシリスを生きたまま棺に入れて川に流す。しかし、オシリスの妹イシス(エミー・マランス)は呪文を唱えてオシリスの男性器を蘇生させ、オシリスの子、ホルスを身ごもる。オシリスの再生を知ったセトは怒り狂い、オシリスの分身たる自動車を14分割してしまう。
 廃自動車が解体され、牛の死骸のように金属の臓物を剥き出しにしていく過程は、『ニューヨーク ジャンクヤード』(→ブログ)を想起させる。但し、本作のほうが派手で禍々しい。デトロイトの闇に炎をあげる5本の黒い塔、溶解して黄色い光熱を発するドロドロの鉄の彫刻は圧巻だ。
 鉄は今から約110億年前、星が大量に生まれた頃、星のなかの核融合によって誕生した。地球の総重量の約35%は鉄だ。鉄は地球上の生命進化においても大きな役割を果たした。約27億年前、シアノバクテリアが大量に吐き出した酸素は、海中に溶けていた鉄イオンと結びついて鉄鉱床が形成された。生命は鉄を利用することで、活動エネルギーとして酸素を使用するようになった。
 古代エジプトに鉄をもたらした西アジアの遊牧民族ヒクソスは、エジプト統治時代、セトと同一視されたステクーを主神とした。セトは「赤い土」の主であり、ホルスは「黒い土」の主だった(石上玄一郎『エジプト 死者の書』より)。赤い土とは鉄分を含んだ土地という意味だろう。

 第3幕はマンハッタンの摩天楼を望むイーストリバーで始まる。ノーマン3世はフォード・クラウン・ビクトリアとして誕生する。回想シーンはブルックリン海軍工廠(wiki)。太平洋戦争で活躍した軍艦を数多く建造し、日本が降伏調印したUSSミズーリもここでつくられた。良き羊飼いのモチーフをあらわすセト。海軍工廠のドックでは、ホルスとセトによる凄絶な王位争奪戦が繰り広げられる。ホルスは片目を潰され、セトは性器に損傷を負う。アフロ・アメリカンの少女たちによる集合ダンスが素晴らしい。

 地下世界が悪臭を放つ汚物に満ちたものとして描かれるのも、『エジプト 死者の書』の忠実な反映だ。霊たちは汚物を食らって生きている。映画に登場する動物たちは、すべて『エジプト 死者の書』に記されている。鷹はホルス神のシンボルであり、終盤に少しだけ映るトキは、トート神のシンボルだ。『死者の書』にはヘビやゴキブリ、死骸を食らう甲蟲、蛆虫を撃退するための呪文が出てくる。

 映画には、動物園で観ることはないが、グリーナウェイの『ZOO』では強い印象を残した牛の死骸が映っていた。また、動物園では拝見できても、劇場映画ではお目にかからない体の部位が何度も映っていた。観たくもないが、人はときに見たくもないものを見たほうが良い。痛みは根本か、肛門か――。

 汚物まみれという点では、アレクセイ・ゲルマンの『神々のたそがれ』(→ブログ)と共通する。ゲルマンの『神々のたそがれ』がソビエト帝国やソ連崩壊後のロシアの汚物にまみれた現実を表現したとすれば、本作はそのアメリカ・バージョンだ。資本主義的サービスが行き届いているため、資金面でも物質面でも豊かで、上映時間が5時間半あっても退屈させない。

 最後の、ヘミングウェイが愛したアイダホ州ソートゥース山脈の美しい自然の景観は、テレンス・マリック的地球賛歌を匂わせるが、汚物洗浄という意味で特に悪くない。生まれてくるのは運であり、死もまた偶然。生命とは永続するもの……。

 クライスラー、GM、フォード。かつて製鉄業や石油会社とともに世界を席巻したアメリカ自動車産業のビッグスリーは、前世紀末から低迷を続け、今やたそがれを迎えつつあるようにみえる。後を引き継ぐのはイーロン・マスクのテスラ・モーターズか、ドイツや日本のメーカーか、はたまた中国・インドの新興企業か。そもそも交通サービス全体の構造が、未来に向かって流動化しつつある。
 セト(鉄)の支配する時代からホルスの時代へ。否、歴史はまっすぐ直線状に進んでいくわけではない。セトとホルスの戦いは永遠に続く。本作の製作時期から2年後にトランプ大統領を選択したのは、かつて鉄鋼業と自動車産業で栄えたラストベルトの人びとだった。
 本作はアメリカ自動車産業と鉄鋼業へのレクイエムとしてみることができる。

 公式サイトが充実している。

 2014年の作品が、日本でこれまで公開されなかったのは、欧米におけるあまりの不評のせいかと思っていたが、爆音上映会の前口上によると、公開条件にマッチする劇場がこれまで見つからなかったのだそうだ。本作品は7.1チャネル想定で製作され、基本的にオペラ劇場での公開が条件だった。
 樋口泰人はじめ爆音スタッフとYCAMに感謝!

 文中敬称略。

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