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日経サイエンス2018年1月号 

「挑む」は「細胞の社会」という概念を打ち出した岡田節人(→wiki)の直弟子、高橋淑子。胚のなかで血管と神経を別々に遺伝子操作するという新技術で、自律神経の成り立ちに大動脈が欠かせないこと等を発見した人。今年4~6月に国立科学技術館で開かれた企画展は入場者数22万人を超えた。

 海外ウォッチでは、まず酸性脳と精神疾患。主に宮川剛による死後脳を調べた研究成果。今後の課題は、覚醒状態の生者脳のpH値が精神疾患の具体的認知・行動の変化にどう関わっているのか。
 悪評の恐怖は、Andy Vonaschらの心理学調査。人種差別傾向が「高い」という検査結果を聞いた人が、それを広く他人に知られるよりスーパーワーム群に手をつっこむほうがマシと答えた人は、「低い」と言われた人4%に対し30%。
 そのほか、トリクロロエチレンの分解能力を持つポプラをPDN3菌株で強化する話や酵母による排泄物有効利用(栄養素や樹脂に変える)の話など。

 natureダイジェストはアルファ碁ゼロの話だが、たぶん来月号の特集:AIの新潮流を読んだほうがよさそう。

 新連載の和田昭充(→wiki)による科学の森では、サイエンス思考を理解する上での出発点となるカール・ポパーの反証可能性概念とトマス・クーンのパラダイム論を短く要約。

 第1特集はマルチメッセンジャー天文学の幕開け。

 第2特集は統合失調症。精神医学ゲノミクスコンソーシアム(PGC)の研究経過。今のところ、新治療法につながる単一の原因遺伝子は存在しないという。統失の遺伝率(遺伝子が果たす役割の程度)が何を意味するのか、定義の明確化が必要という状況。
 むしろ胎児期の要因や幼少時のトラウマが遺伝子の影響を強めて発症リスクを高めることが示され、今後はそうした一連の手がかりをもとに研究を進める必要あり。統失の遺伝学・薬学研究と心理社会学研究(認知行動療法など)で投じられる研究費のアンバランスを是正せよという声があがっている。
 何を今さら、と思ってしまうのは、こちらがシロウトだからだろうか。

 もう一つは、糸川昌成・新井誠・宮田敏男によるカルボニルストレスの記事。統失発症者には、終末糖化産物(AGEs)がたまりやすい遺伝子変異をもつ人が少なくない。AGEsは動脈硬化を促進するなど生体にとって有害物。ビタミンB6(ピリドキサミン)はAGEsの排泄を促すという。糸川による「精神医学の疾病概念」、「内科的治癒と精神科的治癒の違い」のコラムは、精神的疾患の"モノ性"と"コト性"の両面性をわかりやすく解説。

 第3特集は男女関係の神話(「性とジェンダーの科学後編」)。ざっくりまとめると、男女の行動の違いを生物学上の性差に短絡するのは間違いで、環境要因が自然要因を上書きすると考えよ。一方、医学上の性差が大きいことはこれまで見過ごされてきた、ということかな。
 心理学者アンドレイ・シンビアン(Andrei Cimpian,NYU)と哲学者サラ・ジェーン・レスリー(→wiki:Sarah-Jane_Leslie)の記事は、統計的科学社会学、あるいは社会心理学のジャンルに入るのかな。全般的に理系分野に男性研究者が多く、文系分野に女性が多いのは世界的な傾向だが、アメリカの大学における2011年の博士号取得者を対象に、分野ごとに男女比や人種比率を調べ上げて傾向を示している。
 才能を固定的資質とみて、その有無が特に重視されると認知される傾向のジャンル(「哲学」や「数学」)では女性博士号取得者の比率が30%。一方で「美術史」では女性比率が80%。「哲学」では圧倒的に男性比率が高いが、関係の深い「心理学」では女性研究者の比率が高い。学問分野のジェンダー・バイアス、人種バイアスの問題を可視化する試みは興味深い。日本でも似たような傾向を示すような気がするが、たとえば中国ではどうだろう?
 成長マインドセット――つまり、才能は継続するうちに伸びるという考え方を社会に根付かせることが重要と〆ている。

 チャールズ・ファニーハフの内言の科学。ヴィゴツキー(→wiki)は、子どもの私的発話(独り言)は以前に他者とコミュニケーションした際に用いた言葉を計画的に流用したもの、と説いたが、ヴィゴツキー説から引き出せるポイントは、内言(つまり、声に出さない独り言)が、異なる視点の間でのダイアローグだということ。現代的な心理学実験手法とブレインイメージングにより、内言の基礎となる神経機構の一部が明らかになりつつある。

 科学史コーナー(新設かな?)では、19世紀半ばに始まった麻酔手術の話。



 
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