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映画『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』 

 YCAMで映画『DARK STAR/H・R・ギーガーの世界』(2014年/スイス/99分/配給:日活+boid)を観る。製作はダニエル・シュミット作品で知られるマルセル・ホーン(Marcel Hoehn)。監督はベリンダ・サリン(Belinda Sallin)。 撮影はエリック・シュティツェル(Eric Stitzel)。公式サイトはこちら

 薬剤師の父親に製薬会社(サンドス製薬?)から贈ってきたという髑髏をプレゼントされたエピソードを皮切りに、ギーガーのパートナーやアシスタントを務めた女性たちほか関係者へのインタビューや、ギーガーが憧れた幽霊列車の話、バイオメカノイドが産まれた経緯、ミュージシャンたちのジャケ・デザインに採用されたことなどが語られる。たしかEL&Pの『恐怖の頭脳改革』のジャケットを手掛けたことが、成功のきっかけになったと記憶する。

 ポスター制作者のハンス・H・カンツが元ヒッピー感を醸し、2007年からギーガー家の秘書を務めるT.G.フィッシャー(→wiki:Thomas Gabriel Fischer)がメタル・ミュージシャンの真面目な素顔を晒して、両人とも良い味を出していた。とかく暗くなりがちな映像のなかで、シャム猫のムギだけがカワイイ。
 トランスパーソナル心理学のスタニスラフ・グロフ(→wiki)も登場。たしか『脳を超えて』は購入して読んだが、東京の住居を引きあげたとき、古書店に売ってしまったような気がする。グロフの本を読まなくても、上記のwikiをみれば、グロフが登場する理由がおおむね想像できるに違いない。
 映画では、ギーガーのダークなイメージは、錬金術で言う"ニグレド"の過程だ(→wiki:大いなる業)、というセリフが出てくる。

 終盤ではギーガー・ミュージアムがグリュイエールに完成するまでの経緯が描かれる。胸元にSMっぽいタトゥーを覗かせる60歳前後のカップルがギーガーのサインを求めて並んでいるところは、時代を感じさせてじーんと来た。
 それにしても、ギーガー・ミュージアムは1998年オープンか……知らなかった。ゼロ年代にアール・ブリュット・ミュージアムを訪ねてローザンヌまで行ったが、グリュイエールはローザンヌから56キロ。あのときは時間を持て余してモン・ペルランのチベット寺院に足を延ばしたが、知っていたら訪問したのになあ。まあ、スイスのチベット密教寺院というのも、なかなか乙ではあったが……。


 一緒に観た『オラファー・エリアソン 知覚と視覚』がアートの<光>ならば、こちらは黒ぐろとしたアートの<闇>だ。

 ギーガーは、アレハンドロ・ホドロフスキーが映画『DUNE』(→ブログ)の製作プロジェクトを進めるにあたって、サルヴァドール・ダリから紹介され、有機的なハルコンネン城の造形を手がけることとなった。しかし、予算の関係でプロジェクトは頓挫。そのPJで特殊効果を担当したダン・オバノン(→wiki)がホドロフスキーの夢を引き継いで企画したのが、名作の誉れ高い映画『エイリアン』(1979)だった。
 当初は雇われ監督に過ぎなかったSF嫌いなリドリー・スコットだが、『エイリアン』は時代を経て、彼のライフワークの一つとなり、昨今のAI/ナノテク/バイオの革命的進歩を背景としたシンギュラリティ問題を受けて、『プロメテウス』(2012)や『エイリアン:コヴェナント』(2017)を発表している。

 昔、パリのポンピドゥーの近くにあった書店で、タッシェンの『H.G.GIGER ARH+』を購入したが、それはもうヤバかった。グロテスクとエロティシズムの入り混じった残酷なイメージは1980~90年代にかけて、日本でも蔓延したが、女性の快/不快を重んじる風潮の到来とともに、日本の公共空間から排除されるようになった。現在はそうした「政治的正しさ」が猛威を振るい、ちょっと行き過ぎじゃね?という声がようやく増えてきたところだ。何事も万人にとって「ちょうど良い」状態などない。

 クール・ジャパンの元ネタとなったクール・ブリタニア(→wiki)は、ショッキングでグロテスクなアートを手掛けるYBAs(→wiki:ヤング・ブリティッシュ・アーティスツ)の活躍に支えられていた点が大きい。クール・ジャパンがやたらと「カワイイ」ものを強調するのは、クール・ブリタニアが過剰なまでに「グロイ」ものを前面に押し出したことに由来するのだろう(たぶんw)。
 YBAsによるグロテスク・イメージの氾濫には、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(→wiki:RCA)に通ったリドリー・スコットによる『エイリアン』(を通じて紹介されたギーガーのバイオメカノイド)の影響が伺える。余談になるが、美術手帖2018.1月号(→ブログ)で特集されたバイオアートの日本人アーティスト2名(福原志保と長谷川愛)はRCA出身。バイオアートは「生物学を表現メディアとして利用し、作品を通して、生物学自体の意味や自然の変化に目を向けるもの」(ウィリアム・マイヤーズの『バイトアート』序文)であり、必ずしもグロいイメージと直結するものではないが、もともと生物のほとんどは生々しくグロいものだ。

 イギリスのメアリー・シェリーは、スイス滞在時のダオダディ荘の怪奇談義(→wiki)をもとに、フランケンシュタインの怪物を創造した。それを繰り返すように、リドリー・スコットもまた、スイスのH.G.ギーガーを映画に召喚することで、時代を超えた名作『エイリアン』を産み落としたと言えるかもしれない。メアリー・シェリーのフランケンシュタイン・テーマ――リドリー・スコットの『エイリアン』、『ブレードランナー』――YBAs――バイオアートを結ぶ、ちょっとしたコンテクストめいたものを感じさせる。

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