日経サイエンス2018年2月号 

 これまであまり読んでなかったサイエンス考古学は、50年/100年/150年前のScientific American誌の記事をチョイスするコーナー。今回は(?)テック寄り。1968年の原子力経済。米国初の大規模原発設備であるカ州サンオノフレ原発(64年認可)に見られるよう、60年代半ばは原発の飛躍的前進の時代だった。1918年の記事は、日本の自動車稼働台数は2400台(17年末?)で、1916年は年間で218台、東京・横浜間の道路整備も進められ、アメリカが自動車市場として日本に期待を寄せている様子を伝えている。150年前のニトログリセリン事故のTIMES誌記事に宛てたアルフレッド・ノーベルの書簡というのも面白かった。なお、ノーベルのダイナマイトは、全世界の鉱業生産を飛躍的に向上させた。

 ワールドニュース。量子工学者モレロ(Andrea Morello)による500nmまで離れる量子ビットの設計。実働装置での量子ビットの制御が遥かに容易になる可能性あり。医学関連ではオハイオ州立大学のティシュー・ナノトランスフェクション(TNT)技術。細胞膜に微小な穴をあけ、そこからDNAを直接注入する新技術。宇宙関連では、キャリントン・イベント(1859年の太陽嵐→(wiki))以来の大規模な太陽嵐により、今後150年で20兆ドル!の経済的損害が生じる可能性を指摘する声が上がっている。技術進歩により太陽嵐への社会の脆弱性が増大すると想定した数理モデルの話も。

 人工知能特集のA.ゴブニックの「子どもの脳に学ぶ」。ゼロ年代以降のAIの潮流をボトムアップ方式(ディープラーニング)とトップダウン方式(ベイズ推定)の二つにまとめて解説。トップダウンは、ありうる仮説について既有知識とデータを組み合わせ、仮説の正しさへの信念度合い(主観確率)を修正する。
「アルファ碁ゼロの衝撃」ゼロは「人間の知識を使わず、人間の知識を使わずに大量の訓練データを自ら生成する」という。うーん、理解に時間がかかりそうw。コラムでは「AI普及のネック ブラックボックス問題」。

 日本版「量子」コンピュータの選択は、科学政策批評的な記事。内閣府ImPACTの開発した量子ニューラル・ネットワーク(QNN)[プロジェクトマネジャーは山本喜久]はどうやらD-WAVEの量子アニーリングマシン等と同様の古典コンピュータというのが、研究者にほぼ共通する見解らしい。並行計算の実行にビット同士をエンタングルメントで相関させるかどうかがポイントで、グーグルやIBM、デルフト工科大学、リゲッティ・コンピューティング、東大の中村泰信グループらが目指しているものとは異なる。
 日経サイエンス2017年5月号(→ブログ)のフロントランナーで取り上げられていたPEZY Computingの齊藤元章(森本宏特捜部長らが捜査中の助成金詐欺事件の容疑で先日、逮捕)がQNNプロジェクトと連携中とあったが、ひょっとして関係してないよね???。
 科学ジャーナリストを名のる人が日本に何人いて、どこから収入を得て暮らしているか定かでないが、たとえば大手新聞社の科学技術担当記者も、ただ単にノーベル賞受賞者の功績を一般読者のために噛み砕いて解説するだけにとどまらず、国の科学政策の決定プロセスを「見える化」して、後に問題化した際(または問題にならなくても)、一般人が「XXムラ」という決まり文句だけで批判しないような状況をつくりだす仕事をして欲しいものだ。

 科学の世界情勢2017 合理性の危機3本。1本目は、トランプ時代の科学否定傾向。政治的二極分化は、気候変動をめぐる議論にまで影響を及ぼしている。自分で吟味することなく、自分の属する集団の信条を支持するトライバリズムが蔓延。2本目はブレグジットの科学への影響。3本目は「中国の動機」。
 ウィルソン・センター(→wiki)のキッシンジャー米中関係研究所所長Robert Daly(→wiki)曰く「中国が総合的な国力を強めるにつれ、中国共産党が掲げる目標や、個人と組織、情報と国家の関係に関する その反自由主義的な考え方に従順な世界環境を形成しうるようになる」

 ただ、ここで言う「反自由主義」が想定する「自由主義」の中身は、もっと細かく具体的に特定された場合、議論がわかれる点が現れてくるだろう。
 われわれは意識する/しないに関わらず、強いものや勢いのある勢力のもつ価値観や考え方に染まりやすい傾向がある。アメリカやヨーロッパの内部分裂と中国の強大化を前にして、われわれが真剣に考えなければならないことは、読書人ウェブ 宮台真司・苅部直・渡辺靖鼎談 民主主義は不可能な理想かでも議論されている。

 ブックレビューで紹介された『デザイナー・ベビー』(ポール・ノフラー著)によれば、クローンES細胞論文捏造事件のファン・ウソク(→wiki)が中国でCRISPR技術によるマンモス復興計画に関わっているらしい。本書を読まずに言うのもナンだが、これを、一度大きな過ちを犯した科学者にもチャンスを与える中国の寛大さ、と解釈するか、それとも「こういう人にプロジェクトを任せるなんて、中国ヤバくない?」とみるか、だなあ。たとえば、中国が小保方氏に仕事をオファーした場合、日本の知識人は果たして何と言うだろう。あっさりと「結果を出すかどうかでしょ」と言うのか。あるいは、北朝鮮が仕事をオファーしてきた場合。

 広告で、ようやくニック・ボストロムの著作の邦訳が出たことを知る。720ページ!誰かエライ人、10分の1くらいに要約してもらえんやろかw。



 文中敬称略。

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