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映画『クレマスター3』(1) 

 クレマスター2からの続き。

 クレマスター3(35mm/182分/1:1.66/ドルビー・デジタル)は2002年に制作された。

 第1部の冒頭は、北アイルランドの北端、ジャイアンツ・コーズウェイ(→wiki)。クレマスター2に描かれるハチの巣の形状から引き継がれる、六角柱の石柱が無数にひしめき合う海岸。6千万年前の火山活動で生じた溶岩が冷えて収縮し、表面からひび割れて六角形の割れ目ができた。同じく柱状節理が発達した、対岸スコットランドのスタッファ島にある海蝕洞、フィンガルの洞窟(→wiki)とともに、ケルト神話に登場するフィオナ騎士団の首領、フィン・マックールの伝説にちなむ場所だ。

 場面は一変して、摩天楼が林立するニューヨーク・マンハッタン。 グランド・セントラル駅の東隣、レキシントン・アベニューと東42丁目の角に建つクライスラービルのロビー。地中から這い出した女性のゾンビが、複数の男性に担がれ、黒塗りの1930年代型クライスラー・インペリアル・ニューヨーカーに押し込められる。続いて1967年型インペリアル5台が登場し、ゾンビの乗った黒塗り30年型を取り囲み、潰しにかかる。



 1835年にイギリスで蒸気を動力とした荷物用エレベータが誕生。エリシャ・オーティス(→wiki)が1853年に落下防止装置を実用化して人が安全に乗れるようになり、19世紀末には電動式エレベータが商品化された。また、ベッセマー製鋼法が開発され(1856年)、鋼鉄の製造コストが低下し、大量に普及した。さらに、鉄鋼の剛接合の技術発展が加わり、19世紀末、シカゴ万博の前後から高層ビルの建設が始まる。
 NYマンハッタンでは、1908年に高さ187m(47階)のシンガービル、翌09年には高さ213m(50階)のメトロポリタン・ライフタワー、13年には高さ241m(60階)のウールワース・ビルが完成。次々と高さの記録は塗り替えられ、狂騒の20年代(→wiki)には、摩天楼の一大建設ブームを迎えた。
 この時代は自動車の普及台数も飛躍的に伸びた時代。新興企業のクライスラー社は、先発の自動車メーカーに対抗して積極的に広告キャンペーンを展開し、GM、フォードに次ぐ業界3位の地位を獲得した。社長のウォルター・クライスラーは私財を投じてウィリアム・ヴァン・アレンにクライスラー・ビル(→wiki)の設計を依頼した。当初の計画では高さ247mだったが、ウォール街のウォールタワーと世界一の高さを競いあい、竣工直前になって、秘密裏に38mの尖塔を秘密裏に製造した。映画ではそのあたりの事情がメタファー的に描かれているようだ。
 ステンレス鋼の装飾用アーチが重なる頂部装飾の三角窓は、自由の女神像の冠部装飾に呼応している。1886年に完成した自由の女神像(→wiki)は、フランスのフリーメイソンからアメリカのフリーメイソンに贈られたものであり、足元には引きちぎられた鎖と足かせがある。拘束と自由……。

 S.ブレント・モリスの『フリーメイソン完全ガイド』によると、ウォルター・クライスラーは、ヘンリー・フォードと同じくフリーメイソンだ。

 映画では、リチャード・セラが、エルサレム神殿の棟梁と伝えられるヒラム・アビフ(→wiki)に扮し、マシュー・バーニー扮する見習い職人と参入儀礼めいた抗争を繰り返す。

 途中、サラトガ・スプリングスのアメリカ最古の競馬場に場面が転じたり、黒ビールを飲むクラウドクラブのメンバー、義足のエミー・マランスが登場したりする。黒ビールといえば、アイルランドのギネス・ビールであり、ギネス世界記録(→wiki)を連想させる。それはつまり、世界一を競い合う男性的な精神を表現している。フリーメイソンはいつの時代も「より高み」を目指した。
 また、アイルランドといえば冒頭のケルト神話との関係を想像させる。ウォルター・クライスラーは、大規模な古代公認スコットランド儀礼のカンザス州「サリナ渓谷」ロッジに属したという。映画ではそのイニシエーション儀礼をドラマ化したのかもしれない。スコットランド派フリーメイソンリーは、地理上のスコットランドと関係ないとされるが、たとえばフリーメイソンの起源を「テンプル騎士団」に結び付けた重要人物アンドリュー・マイケル・ラムジーはスコットランド出身で、チャールズ・エドワード・ステュアート(→wiki)の家庭教師だった。

  クレマスター4の舞台がマン島であることも含め、クレマスター・サイクルの「起源への遡行」は、スコットランドやアイルランドのケルト文化と大いに関わっている。

 スコットランドはステュアート朝(→wiki)の生誕地で、ジャコバイトは18世紀半ばまでフランスのある種の勢力と結託し、しばしばイングランドで政治的・軍事的行動を起こした。
 いっぽう、スコットランドは、デイヴィッド・ヒューム、アダム・スミスを代表とするスコットランド啓蒙主義が生まれ育った土地でもある。また、産業革命の父と称えられるジェイムズ・ワットのほか、高炉における熱風使用を発明したJ.B.ニールソン(→wiki:J.B.Neilson)、工作機械の父と呼ばれるH.モーズリー(→wiki)や旋盤の発明者W&P.フェアバーン兄弟(→wiki:William Fairbairn)、橋や運河、ドックの設計で名高いジョン・レニー(→wiki:John Rennie the Elder)など、交通、建築、鉄鋼、工作機械等の分野で活躍した人びとを多く輩出した。

 クライスラー・ビルは男性的な垂直性を示しているが、頂部の装飾などは女性的でもある。コールハースの『錯乱のニューヨーク』文庫版の表紙には、妻のマデロン・ヴリーゼンドープによるイラストで、エンパイアステートビルとクライスラービルが添い寝する場面が描かれる。サイドテーブルには、松明を掲げた自由の女神像の片腕が置いてある。

 クレマスター3(2)に続く。

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