ナショナルジオグラフィック2018年4月号 

 ナショジオ4月号は、可視化/分類/分岐/対立の過程と課題・問題点という、ナショジオならではのテーマがゆるやかにつながって感じられて素晴らしい。

 表紙は特集を反映してダークグレーだが、中の写真は春めいて明るい。

 冒頭のVISION写真は語るは、佐藤岳彦の写真・文による「変形菌」。メタリックな光沢を仄かに放つジクホコリ、真紅のマメホコリ、紫のウルワシモジホコリなど。

 探求のトビラは、キャサリン・ザッカーマンによる海藻のパワー。海藻食といえばかつては日本の独壇場というイメージがあったが、現在最もコンブ類の養殖が盛んなのは中国(2015年に700万トン!)。誌面にはないが、たしか食用魚の養殖に関しても、中国は想像以上に先を行っていると聞いたことがある。

 特集の「超監視時代」は、おもに、「監視先進国」英国の実情とプラネット社の衛星画像サービス(日本代理店:(株)衛星ネットワーク)。
 国家を転覆させる革命のなかったイギリスでは、もともと他国に比べ「国家は善良」と考えられ、監視システムが受け入れやすい。ブレッチリー・パーク(→ブログ:映画『イミテーション・ゲーム』)やジェームズ・ボンドの007の例に見られるように、諜報活動にポジティブなイメージがある。ロンドンの監視カメラ網構想は、90年代初頭のIRAによる爆弾テロがきっかけとなった。
 幹線道路に自動車ナンバープレート自動認識装置(ANPR)を導入。英米における警察官のウェアラブルカメラ装着は、警察の権力乱用の防止策にもなるとして、人権団体も理解を示した。今後はさらに、看護師や介護士にも導入されるかもしれないという。言うまでもなく、監視技術は諸刃の刃。

 現在、約1700基の人工衛星が軌道上にあるが、プラネット社はDOVEと呼ばれる人工衛星を150基使用して、地球の陸域の画像を集めており、有用な目的に使用されている。衛星画像サービスは当社のほかにも、解像度の点では勝るデジタルグローブ(→wiki)などがある。
 過剰な可視化社会を前にして、SNS依存の研究で知られる神経学者スーザン・グリーンフィールド(→wiki)は「ときに外界と距離をおく」ことの重要性を説く。「見えるものがすべて」という考え方、常時接続、自分をさらけ出すのを良しとする風潮は、人生の機微や抽象性の軽視を招くと警告する。

 日本では監視社会反対!の声が大きいが、大きな事件が起これば「弱者の安全」を理由に監視社会化が進む可能性がある。今回の特集は今の日本の情勢にも深く関わっていて、官僚の公文書管理問題から、公務員の具体的な仕事内容に対する市民の「監視」は、今後強化される方向で議論されるだろう。まあ、官僚一人ひとりにウェアラブルカメラとかレコーダーつけるところまではいかないにせよ。

 過剰な可視化が抽象性軽視を招く、というのはわかる。人工知能が社会に普及しつつある時代、新たな抽象化の多くはもはや人間の仕事と見なされず、AIが与えられた大きな目的に即して(ディープラーニングを通じて?)自動的に特徴量を抽出し、人間が理解できない抽象概念を次々に産み出していく時代になるかもしれない。

「人種と遺伝子」:人類はアフリカを起源とし、2回あったとされる大移動の過程で、肌の色を変化させてきたという。その変化はSLC24A5遺伝子に起きたたった一つの小さな変異に基づく。NHKスペシャル 人類誕生にも関係しそうな記事。非アフリカ系は全員、わずかにネアンデルタール人のDNAをもっていて、その遺伝子は免疫力や統合失調症リスクを高めるとある。昔、デイヴィッド・ホロビンの『天才と分裂病の進化論』(→松岡正剛 千夜千冊 684夜)を読んで感動を覚えたが、研究はさらに進み、今やここまで(→AASJ 論文ウォッチ2017/10/8:旧人類・現人類相関図)に至っている。NHKスペシャルではどこまで踏み込むのかな?

「対立の心理学」は友敵問題。人は生まれつき「私たち」と「彼ら」を区別するようにできている。集団に対する認知や情動の多くは、意識外で生まれる。脅威に直面すると無意識に「私たち」を優先する。ただ、古い集団同一性は新しいものにすぐに置き換わることが、いくつかの実験で指摘されているという。
 映画『スリー・ビルボード』でも描かれていたが、アメリカでは警察官の人種偏見が社会問題になっている。迅速な判断を求められる際に、意識下のバイアスが影響する。ワシントン大学は警察官の武力行使訓練に使うシミュレータの一つとして、偏見解消訓練シミュレータ(警察官の意思決定プロセスから人種などの要素を排除する)を開発。ほかにも「公正中立な警察活動」(FIP)などの取り組みが行われている。

「生命が複雑になったとき」は先カンブリア時代のエディアガラ期(→wiki)から、いかにカンブリア爆発に至ったのか、という話。殻も骨格もない柔組織だけで、移動も咀嚼も排泄もしない、(恐らく)「栄養を体内に染み込ませて」摂取していた大半のエディアガラ生物群のなかから穴を掘る蠕虫(ワーム)が現れ、前端・後端のある筋肉質のワームが登場し、カンブリア時代に至り、海洋の化学組成変化もあって、さらに捕食のできる生物が現れたのではないかと考えられる、らしい。

 ナショジオTVで、アロノフスキー製作総指揮『宇宙の奇石』(→番組ページ)があるという。アロノフスキーは今後、テレンス・マリック化が進むのかな。見てみたい気もするが、このためだけにスカパーに入るというのもなあ。単品でIMAXシアターで見たい。

 たまたま今DVDで、これまで見てなかったトニー・スコットの『エネミー・オブ・アメリカ』(1998)を観たのだが、これがまさに現在の監視社会を予見した映画だった(というか、昔から監視社会/超可視化社会は問題になっていた)。NSAが実名で登場し、「スパイ衛星100基」というセリフが。NSAの件はスノーデンが大々的に暴露したが、世間は大騒ぎすることもなく、多くの人は淡々と受け入れているかのように見える。



【追記】2018/5/6
 中国の社会信用システム(→ニューズウィーク日本版/14億人を格付けする中国の「社会信用システム」本格始動へ準備(2018.5.2))はもっと話題になってもおかしくない気がするのだが……。

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