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『破綻するアメリカ』(1) 

 フランシス・フクヤマの翻訳で知られる会田弘継の『破綻するアメリカ』を読む。

 タイトルが、左派の重鎮、チョムスキーの邦訳書(2009年)と同じというのが挑戦的。よくまとまっていて、かつインフォマティブな著書で、知らなかったことや忘れていた事柄も多い。本書に記述された固有名を頼りにネットでいろいろ調べることもできる。

 以下、個人用にメモ。

第1章 トランプ誕生の経済的背景

・『ヒルビリー・エレジー』(著)のベストセラー化。
・PEWの中間層の人口(成人)比率の変遷(1971-2015)。農村部の白人高卒労働者階級の不満。このあたりの事情は、映画『スリー・ビルボード』にも表現されていた。
・『ニューリパブリック』で活躍し今は『ナショナル・ジャーナル』に所属するジョン・ジュディスは過去半世紀の米政治を分析する上で重要な投票集団として「中産階級ラディカル」をあげる。彼らはパット・ブキャナン、ロス・ペローを支え、この度のトランプ旋風の原動力となった。
・元トロツキストのジェームズ・バーナム(→wiki)は、1941年の『マネジェリアル革命』で、テクノクラート革命ともいうべき権力交代が起こることに警鐘を鳴らした。いわく、世界はおそらくテクノクラート(→wiki)が大衆を支配する3つの超国家に統合される。これは、ロバート・ライシュ(→ブログ:映画『みんなのための資本論』)が『ザ・ワーク・オブ・ネイションズ』で描いたシンボリック・マネジャーと彼らに奉仕するほかの労働者という構図に相似。
(私見:バーナムの言うエリート・テクノクラートは、最近見たスピルバーグの映画『ペンタゴン・ペーパー』にも登場したロバート・マクナマラのイメージに近い。ランド研究所的何か。
 中国ではまさに今、習近平を中心としたエリート・テクノクラートによる大規模な人民統制のシステム化が進んでいる(←ニューズウィーク記事2018年5月2日)。ただ、一方的にこれを「悪」と断定することはできないとする人もいるだろう。たとえば、ベイシックインカムを導入したうえ、年収の高い層5%と、低い層5%の年収格差が5倍以上に拡大しないよう調整する仕組みを仕込むなどすれば、アメリカのような富裕層1%が富を独占する体制より遥かにマシだとして、歓迎する者も少なくないだろう)。

 第2章 トランプ誕生の思想史的背景

・オンライン保守論壇ジャーナル・オブ・アメリカン・グレイトネス(JAG)。
・若手歴史学者ティモシー・シェンクが戦後アメリカ保守内部の思想的確執を描き出した、(リベラルの)ガーディアン紙2016年8月16日付け記事で、サミュエル・フランシスがトランプ誕生の思想的背景になっていると述べた。(オルタナ右翼の原点)S.フランシスは保守系紙『ワシントンタイムズ』論説委員を務めていたが、90年代半ば白人文化擁護を強く訴え、ウィリアム・バックリーを中心とする保守知識人の主流派から疎まれ同紙から追われた。彼は92年と96年のブキャナン出馬を支援。彼らの共通点は、貿易保護主義、移民排撃、アメリカ・ファースト。
・戦後アメリカ保守思想運動研究の第一人者、思想史家のジョージ・ナッシュが書いた『1945年以降のアメリカ保守派思想運動』(2006年増補改訂3版)。
・ユダヤ系ドイツ人のレオ・シュトラウス(→wiki)はアーヴィング・クリストルらネオコン系知識人に大きな影響を及ぼす。彼の思想は古典思想の立場から「近代合理主義(科学)」や「歴史」という思想を批判。
・JAGは、ダボス会議やクラブ・フォー・グロースなど経済グローバリズムを推進する組織に反対。外交面では民主主義拡大や人道介入を否定。

 政治意識論で有名なミシガン大学のロナルド・イングルハート(→wiki)による調査報告書『トランプ、BREXIT、ポピュリズムの興隆――経済的弱者と文化的反動』が2016年8月にハーバードのケネディスクールから出版。これによると、1976年前後から環境保護、ジェンダー・人種間平等、LGBTの権利意識が高まり、アイデンティティ・ポリティクス(民族・性別集団ごとの権利主張)が高まる。→文化的反動としてのトランプ現象。
・主にシカゴ大学で教えたレオ・シュトラウスの弟子たちの系譜は、クレアモントを中心とする西海岸派と、ワシントンで現実政治に関わる政策知識人たちの東海岸派に分かれる。
・保守系シンクタンク、クレアモント研究所のチャールズ・ケスラー(西海岸シュトラウス派の代表的論客)は、トランプ現象とPCの2つの「社会・政治力」の衝突ととらえる。
・(JAG論客デキウスが批判する)東部エスタブリッシュメントを代表する外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』2016年7.8月号にフランシス・フクヤマ(広義のシュトラウス派)が寄せた「アメリカ政治の衰退か再生か」では「2016年大統領選挙の本質は、大衆の大部分がいま直面している格差の拡大・経済停滞に対し、アメリカ民主主義が数十年ぶりにやっと反応したことにある」。これにより、人種やジェンダーなどの近年の争点は背景に退いた。
・ナンシー・アイゼンバーグの『白い屑 アメリカの階級の知られざる400年の歴史』。

 第3章 策士バノンとオルタナ右翼

・スティーヴン・バノンは「大手電話会社の架線工を父に組合員労働者の家庭に生まれ、ハーバード経営大学院を出て海軍からゴールドマン・サックスに就職」した「アイルランド系カトリック」。そういえば、バーホーベンの映画『エル』(→ブログ)で主人公に襲い掛かる犯人も、アイルランド系カトリックの金融関係者だった。
 バノンによれば、エスタブリッシュメント凋落の大きな原因は、NYタイムズやCNN、MSNBC、ハフィントンポストらリベラルメディアが「自己満足的に仲間内だけで対話し、同質化したものの見方」をつくって、世界の現実を理解しないこと。バノンの具体的な主張についてはp116~121に詳しい。アンチ・ダボス。プーチン側近らによるユーラシアニズムにも言及。但し、当面の敵はイスラム過激派。
 ブライトバードの元編集幹部マイロ・イァノプロスは「主流派右翼のためのオルタナ右翼ガイド」で(内部からの見方として)、オルタナ右翼を3つに分類。
①本来的保守主義 ②ミームチーム ③1488族 ほかにも孤立主義者、親ロシア族、ロン・ポール(リバタリアン)支持者、「ネオ反動主義者」。
 オルタナ右翼の主流は①で、彼らは自由市場経済と対外的介入主義に突っ走るレーガンーバックリー保守が牛耳る共和党と、多様性追求+平等化を目指す民主党に対し、「多様性より同質性、急進的平等主義より階層と秩序」を重視する人びと。いわゆるMARs(中産階級ラディカル―ドナルド・ウォレンの造語)。
②は2ちゃんを模した4ちゃんを舞台に、ポリコレに反発して暴言を吐くのを好む、社会規範に挑戦することを好む人びと。オルトライトの中核的論客、『アメリカン・ルネサンス』誌主宰者ジャレッド・テイラー(→wiki:Jared Taylor)など日本のサブカルにも親しい人物がいる。
③はネオナチ(ネオナチスローガンは一文14語、88はアルファベットの8番目HH(つまりハイルヒットラー)。オルタナ右翼穏健派としてはできればいて欲しくないという。

(イァノプロスの見立てでは)オルタナ右翼の出現原因は、多文化主義(MultiCulturalism)の風潮で、西洋文明の伝統が不当に貶められてきたことにある。他方、経済と外交の方ばかり向く主流右翼に対しては、左派のアイデンティティ・ポリティクスの隆盛に対し「(古典的)人文主義や自由主義、普遍主義」を盾に押しとどめる努力を怠ったと不満を抱く(第4章に詳しい)。
 なお、バノンらオルタナ右翼と、表面化してきたシュトラウス派は、現状認識は似通うが、思潮的には全く別物。
 JAG論客デキウスの正体は、西海岸シュトラウス派のマイケル・アントン(トランプ新政権のNSCに副補佐官として入った)。西海岸シュトラウス派は、新論壇誌『アメリカン・アフェアーズ』を発足。編集長のジュリアス・クレインはアントンの同志。シャーロッツヴィルの衝突では、トランプを激しく批判。

 『破綻するアメリカ』(2)に続く。

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